話し声が聞こえて、目を開けると至近距離に顔があり、咄嗟に鷲掴みしてしまった。ぐえ、と声が聞こえて、状況がよく分からず目を瞬かせていると、ぷっと何かが噴き出す音が聞こえた。

「おいおい、そろそろ手を放してやれよ」

 空音は笑みを浮かべながら俺の手を指差す。俺は言う通り手を放す。

「もー! いきなり顔を掴むなんて淳ちゃんてば酷い!」
「…お前か」

 俺を散々悩ませ、熱まで出させた張本人を目の前にして、複雑な気持ちになる。俺の微妙な顔に、何を誤解したのか、戸叶が不満そうな声を上げた。

「あっ、何その顔!」
「…いや、別に。つかいい加減離れろ! 顔近いんだよお前!」
「え〜? あ、もしかして淳ちゃん照れてる?」
「相変わらずおめでたい頭してんな…」

 空音が呟く。まったくもって同意するが、いつものことなので苦笑した。

「こんにちは、戸叶くん。体調はどう?」
「最近は調子いいんすよー」
「調子いいからって油断しないこと。あと、序でだから熱計っていってね」
「あーい」

 戸叶はそう返事するが、動く気配がない。俺をじっと見つめていたかと思うと、突然ニタァ、と気味の悪い笑みを浮かべた。背筋がそわりとした。な、何だか嫌な予感が…。

「もしかして熱ってさぁ、俺のことで出しちゃったの〜?」
「――っ、ち、ちが」
「そうなんでしょぉ? もう淳ちゃんてば可愛すぎ!」
「え? どういうことだ? 俺にも分かるように説明してくれよ」
「あのねー」
「誰が説明するか! 戸叶も黙れ!」

 ニヤニヤしている戸叶を睨みつけていると、保険医が呟いた。

「青春とは、良いものですね…」

 眩しそうな顔が、とても腹立たしかった。