しんと静まる室内。予想外のことにどうしようと目を泳がせていると、クソ会長が笑う。口角を上げる、その笑い方に嫌な予感がした。

「なんてな」

 こいつマジでゲスくないか? 蟀谷に青筋を立てていると、保険医が慌てた様子で間に入ってきた。

「ほら、中村くんはまだ熱あるんだから寝ないと! 久賀くんも、もう授業に戻りましょうね?」
「……うス」
「俺に指図すんな」

 おい、教師に向かってなんて言葉遣いだ! 俺でも教師にはちゃんと敬語(っぽいもの)使うんだぞ! クソ会長とかには死んでも使いたくねえけど。…つか、指図すんなってお前は一体何様なんだ。
 俺は口を開くとまた口論になりかねないなと思って大人しく体を倒す。保健室のベッドって、硬いからあんま好きじゃねえんだよな。というか、保健室自体好きじゃない。白一色で何だかそわそわするし、消毒薬の臭いするし。あと、何だか独特の雰囲気があるよな。

「なんだ、寝んのかよ」
「久賀くん、」

 諌めるような保険医の声に、チッと舌打ちする音が聞こえた。学園のトップにあるまじき態度だなマジで…。顔を顰めてクソ会長を見ると、クソ会長も顔を歪める。バチバチと火花が散りそうな程、俺たちはじっと睨み合っていた。張り詰めた空気の中、保険医は酷く居心地が悪そうだ。

「く、久賀くん」
「…あんだよ」

 クソ会長は保険医を見る。目が合うと、何だか気まずそうに顔をそらして、そのまま踵を返した。無言で去って行くクソ会長の背中を見つめる。
 保健室のドアが音を立てて閉まり、張り詰めた空気がなくなると、保険医はふうと息を吐いた。

「…久賀くん、あんな態度だったけど、心配してたんだよ? 倒れてからずっとここにいたしね」

 驚いて保険医を見る。
 まあ授業をサボってまでいたことは褒められないけど、と苦笑した。

「倒れてからずっと…って」

 時計を見れば、もう五限目が終わるような時間帯だった。…あのクソ会長が俺のことを心配してた…? そんな、馬鹿な…。

「ちゃんとお礼言っておくんですよー」

 保険医は朗らかに笑ってカーテンを閉めて出ていく。俺はガシガシと髪を掻き混ぜて枕に顔を埋める。顔が熱いのは、気のせいだと思いたい。