はあ? クソ会長が訝しげな声を上げる。振り向かなくても、どんな顔をしているのか想像できる。

「…いい加減、こっち向けよ」

 俺は、今一人で考えたいんだ。翔太のこと、そして戸叶のこと。あいつは昨日、初めて見るような切ない顔で力なく笑って、俺の額にキスをすると帰って行った。俺は、あいつにあんな顔をさせてしまったんだ。…俺は、よく分からなくなった。翔太を好きなのか、それとも戸叶が好きなのか。どっちも同じくらい大切だが、好きの種類が違う。だから恋愛感情で好きなのは翔太な筈だ。そう思っていた。でも、ごちゃごちゃと気持ちが混ざり合って、はっきりと好きだと言うことができない。
 考えれば考えるほどズキズキと頭が痛くなり、目を閉じた。

「だからこっち向け……って、お前…」

 肩を掴まれ、ぼおっとクソ会長の顔を見ると、目を見開いているのが何となく分かった。最近良く見るなこいつのこういう顔…。ボヤけるクソ会長の顔が、俺の額に手を遣って焦りに変わった。…ヒンヤリして気持ちよくなり、目を細める。

「熱あんじゃねえか。……通りで大人しかったわけだよ」

 クソ会長はチッと舌打ちをして、俺の腕を掴んだ。俺は眉を顰めて振り払おうとする。しかし、力があんまり入らず、そのまま引っ張られた。数歩歩いたところで眠気が俺を襲い、意識が段々と遠くなる。クソ会長の声と、周りの奴らの声が聞こえた気がしたが、聞き取ることはできなかった。



「風邪ですねー」
「……はぁ」

 目が覚めると、保険医が俺にそう言った。待て、なぜ風邪を引いたんだ俺。確かにちょっと体調は悪かったが、倒れるほどの熱を出した原因が分からねえ。
 クソ会長が馬鹿にしたように笑った。……って、いうか…何でここにクソ会長がいるんだよ! きっと睨みつけると、ニヤァ、と笑った。顔が引き攣る。

「なんだ、その顔は。誰がここまで運んで来てやったと思ってんだぁ? ありがとうございます久賀直人生徒会長様くらい言えよな」
「……運んで貰ったのは、まあ、感謝するとしても……何でだ? 何を企んでやがる」

 先程よりもすっきりした頭でそう問えば、クソ会長の眉がくいっと上がる。次いで呆れた顔で溜息を吐かれた。

「あのなあ、俺は仮にも生徒会長だぜ? 目の前に熱出してる奴がいて、放っておけっかよ」
「え……」

 その言葉に目を瞠った。え、これ…夢、じゃないよな?