何故か恐怖を感じ、目をさっと逸らして、すぐに戻す。無表情だがさきほどの薄気味悪い感じはなくなって、ほっとする。

「やめろ…って、お前、顔色悪いぞ」

 薄気味悪く思えたのはその所為かもしれない。俺はふらふらとしている戸叶の体を支えた。

「…ごめん、淳ちゃん」

 張り詰めた空気がなくなり、戸叶は眉を下げて俺を見る。俺は気にするなという意味を込めて肩をポンポンと軽く叩く。

「いや、いいって。今更だろ」
「それもあるけど、…」
「え?」

 首を傾げる。きゅっと眉を顰めた戸叶は結局何も言わず俺の肩に顎を乗せた。体調の他に、何の意味で謝ったんだろう? 考えてみたが思い当たる節がなく、俺は黙って戸叶の背中を撫で続けた。
 ……俺は、翔太を好きだけど、翔太は…クソ会長を好きな可能性が高い。諦めて戸叶と付き合った方が――と考えて、ハッとする。そんなの、戸叶に失礼だ。恋愛的な意味で好きじゃないのに付き合うなんて。それに、翔太への気持ちはその程度だったのか、と自分に言い聞かせる。……でも。でも、もう少しだけ。もう少しだけ戸叶の返事を要求してこない優しさに甘えていたい。俺は目を閉じて、ぎゅっと抱き締めてくる戸叶に身を委ねた。



 ぼおっと窓の外を見る。久しぶりに授業を受けていたが、ものの数分で飽きてしまい、空をじっと眺めている。それがずっと続き、いつの間にか昼休みにまでなっていた。食堂へ行こうと誘ってきた翔太に初めて断りを入れて、酷く驚いた顔をされた。
 体調でも悪いのかと心配されたが、今日はそれが鬱陶しく感じ、適当に答えていたら、心配そうな顔で食堂へ行ってしまった。行ってしまったっていうか、俺が行かせたんだけど。一人で行くんじゃなくて、クラスの奴と一緒だから親衛隊のこととかは大丈夫だろう。……何だか今日は何もやる気が起きない。昼飯も食欲がなくて、俺はぼーっとする頭でずっと空を見ていた。
 ざわっと教室が騒がしくなったが、俺は振り向かない。

「おい、犬」

 クソ会長の声がした。もう聞き慣れてしまった呼び名に眉を顰める。…尚更振り向きたくなくなった。

「無視すんじゃねえよ」
「…うるせー」
「翔太と一緒じゃねえのか」
「翔太なら食堂だ」

 だから、さっさとどっか行け。