(side:淳也)

 数日後、顔の腫れた副会長に、親衛隊は大騒ぎしていた。しかし副会長がスッキリした表情だったので、犯人を探す程までにはならなくて、そのまま騒ぎは収まった。でもやはり気になる奴が多いらしい。……ま、俺は犯人知ってんだけどな。
 空音が俺に礼を言いに来た。副会長と一緒に。副会長は、後継にはなれないけど、ちゃんと話し合うことが出来た。弟に家のことを任せると笑顔で言っていたから、とりあえず俺も良かったなと頭を叩くと、何故か嬉しそうに笑った。良く分からないが、これで仕事をしてくれるなら空音の隈もそのうちなくなるだろう。暫くすれば、会計も戻ってくるし。

「淳ちゃん〜、パン取って」

 日曜日の昼下がり。俺のベッドをまるで自分の物のように占領して寝っ転がっている戸叶が、雑誌を読んでいる俺の髪を引っ張る。痛みに眉を顰めて、戸叶の手を払う。

「自分で取れよアホ」
「…はぁい」

 凄く嫌そうな声で俺のベッドからのそのそ動く戸叶。それを一瞥して雑誌に視線を戻す。

「ぅあっ」

 その声に顔を上げると、戸叶の体が傾いているのが分かり、慌てて立ち上がって戸叶の体を支える。倒れる前に支えられたことに安堵して手を放そうとすると、戸叶がぎゅっと抱き着いてきた。

「うおっと…、危ないだろ、いきなり」

 同じくらいの身長なので、体を支え切らず、後ろに倒れそうになってしまった。

「淳ちゃん、俺がこの前言ったこと覚えてる?」
「この前?」
「……俺さ、淳ちゃんに告白したんだよ?」

 ぎくりと体が硬直する。戸叶は拗ねたような顔で俺を見た。

「もうちょっと意識してくれてもいいんじゃないの」

 そう言いながら、何だか…顔が、近づいてきてるような…!? 俺は顔を引きながら戸叶の肩を押す。

「お、おい、落ち着け」
「落ち着いてる。だからキスさせて」
「いやいやいや何言ってんだ!」
「好きだよ淳ちゃん」

 熱の篭ったその声に、思わず顔が赤くなる。どうしていいか分からず、目を逸らした。

「か、仮に付き合っても俺はお前を抱くなんてできない」
「え? 何言ってんの、抱かれるのは淳ちゃんだよ」
「だから諦め……え? 何だって?」

 い、今変なこと言わなかったか、こいつ?
 嫌な汗を流しながら恐る恐る戸叶を見ると、それはそれは素晴らしい笑みで言い放った。

「だから、俺は淳ちゃんを抱きたいの」