※未成年の飲酒喫煙は法律で禁止されています。また、暴力表現有りなのでご注意くだい。

(side:尚史)

 胸糞悪い夢を見た。
 ソファから起き上がると、煙草に火を点けて銜える。煙草の残りはこの一本だけで、俺は舌打ちをして煙草の箱をぐしゃぐしゃと潰す。そして思い切りゴミ箱に向かって投げつけた。それはゴミ箱には入らず、側面に当たって床に落ちた。
 やる気がなくなってソファに寝転び、煙を吐く。そういや二度寝する前に吉原をパシったような記憶があるが、んなことどうでもいいか。煙を吐きながら、夢を思い出す。はっきりと夢を覚えているのは、それが現実に酷似していたからだ。だからこそ、吐き気を覚えるほどの苛立ちが俺を襲う。
 あのキモいデブは、突然俺から姿を消した。夏休みに入る前は尻尾を振って俺に懐いてきていたっつーのにだ。この俺がこっぴどく振ってやろうと楽しみにしてそれまで我慢していたんだぞ。いよいよだという時に転校しただと? ふざけるなと思った。探して、原型がなくなるまでボコボコにしてやろうと思った。――が、俺はあいつの家も携帯番号も、メアドも、何も知らないということに気がついた。思えば、他にも知らないことが山ほどある。当たり前だ。俺たちの間に、そんな世間話のような会話なんてなかった。つーか、それ以前に会話なんて全くしてなかった。

「チッ」

 煙草の火を消して、床に散乱している空の缶ビールを足で思い切り潰す。ぐしゃりという音を聞いて少しすっきりした俺はシャワーを浴びに洗面所に向かった。




 無性に暴れたい気分になり、出かけることにした。どうせ煙草も買いたかったことだしちょうどいい。ポケットに手を突っ込んでだらだら歩いていると、誰かの肩が俺の肩に当たる。俺は目を鋭くしてそいつを見る。どいつだ、この俺にぶつかるとはいい度胸じゃねえか。しかも、機嫌が悪い時に。

「――、っ」
「ひぃっ、す、すみませ、」

 一瞬心臓が止まる。横に広い体型のそいつは、あいつに似ていた。

「テメェ…」

 俺はにやりと笑みを作って裏路地まで引き連れると、太い腹を蹴り上げた。ぐふ、と気持ち悪い声を上げる醜い体を何度も何度も蹴る。どれだけ目の前の奴を蹴ったり殴ったりしようとも、気分が良くなることはなかった。