「なあ、吉原くん」
「何? あ、吉原じゃ兄貴と被るし一樹でいいよ」
「じゃあ一樹くん…。えーと、君の席大分後ろなんだけど…。そこの席の子困ってるんだけど…」
「大丈夫大丈夫」

 何がだ。
 入学式が始まろうとしている時、我が物顔で俺の横の席に座っている一樹くんをどうにかして退かそうとしたけれど、どうやら退くつもりはないらしい。前の席に座っているアッキーも呆れた様子で一樹くんを見た。

「おいバカ樹、お前馴れ馴れしすぎ」
「なに? 誰がバカ樹だって!?」
「お前のことに決まってんじゃん」
「じゃあお前はバカなりだな!」
「あぁ!?」

 何故喧嘩になるのだろう。周りの迷惑なるから止めようとしたが、もう放っておくことにした。俺は言い合いを聞き流しながら携帯を開いてアドレスを入力していく。とりあえず、登録しましたってメール送っとこう。
 送信しましたのメッセージを見て携帯を閉じると、そういえば、と言って一樹くんがこっちを向いた。

「オカケイはいつこっちに戻ってきたんだ?」
「オカケイ? …オカケイ!? もしかして俺のこと!?」
「そうに決まってんじゃん」

 いや、そうに決まってんじゃん(真顔)、じゃないよ! 何オカケイって!

「ダサ」

 アッキーがドン引きした顔で一樹くんを見る。ズバッと言うなあ相変わらず。

「煩いバカなり」
「なんだとバカ樹」
「で、オカケイ、さっきの質問だけど」
「え、ああ…。いつこっちに戻ってきたかって? ついこの間だけどそれが何か……ん? 何で俺がこっちにいなかったこと知ってるの?」
「兄貴から聞いたから」

 きっと、屋上に来ないから殴り込みにでも来たんだろう。それで俺が転校したって聞いたのかな。

「バカなりとは転校先で会った感じ?」
「そうだよ。今の俺がいるのはアッキーのおかげ」
「よせやい。照れるだろうが」

 照れくさそうに頬を掻いて笑うアッキー。俺も嬉しくなって笑う。
 なるほど、と頷いている一樹くんに首を傾げていると、体育館中に声が響いた。入学式が始まるらしい。俺は背筋を真っ直ぐ伸ばして前を見た。