俺を見て顔色を変え、道を開ける奴らの間を早足で抜ける。一年の教室が並ぶところまでやって来たはいいけど、一樹の姿も岡崎くんであろう人物もいない。まだ連れ出していないらしい。溜息を吐きながら、仕方ない、教室に乗り込むかと考えて、はっとあることに気づく。……クラス聞いてないよ、俺。しまったなと思いながら取り敢えず一組の教室を覗く。俺のことを知っている新入生も知らない新入生も、俺の顔を見て目を見開く。中には顔を赤くしている女生徒もいた。今でなければ手くらいは振っただろうけど、俺は教室の中に弟の姿がないのを確認して直ぐに顔を引っ込めた。
 二組、三組…と覗いてみるが、矢張り見当たらない。四組に近づいていくと、中から騒がしい声が聞こえた。ドアを開けると、漸く一樹を発見。

「一樹〜。何やってんのさ」

 一樹は誰かと言い争っていた。真っ赤なヘアバンドの、俺が言うのもなんだけどガラの悪そうな奴と。

「あ、兄貴…」

 一樹は俺を見て気まずそうな顔をする。ヘアバンドの子が凄い睨んできているんだけど、どうしたもんかね。っていうか、……え? もしかしてこの子が岡崎くん? いやいやいやこれはどう見ても別人だ。でも、この子と言い合いになっているということは、やっぱりこの子が岡崎くん? 
 うーんと考えていると、俺を見てポツリと呟く奴がいた。

「…吉原、先輩……?」
「え…」

 驚愕した顔をしているのは、黒縁眼鏡の男。俺のことを知っている? どっかで会ったけな…。

「圭、お前、もしかしてこいつが中学の…?」
「…あの人の友達。何でここに……」

 圭? ――この子が、岡崎圭くん!? 中学、あの人の友達。…つまり、あの人というのは尚史のことだろうか。俺はまじまじと岡崎くんを見る。言っちゃ悪いけど、原型を留めてないくらい変わってる。だって岡崎くんはこんなに真っ直ぐ人を見たことなんてなかった。

「岡崎くん、なんだよな…? そう、俺が吉原充だよ。……ずっと俺は君に」

 少し興奮しながら近づくと、威嚇するようにヘアバンドの子が前に出て俺を睨む。こいつは一体何なの? 今お前に用はないんだけど。

「アッキー、俺は大丈夫だから。…吉原先輩、もしかしてここに夕凪先輩もいるんですか?」
「あ、ああ…うん、いるよ。でも俺は、岡崎くんがここにいること尚史に言わないよ」
「え?」

 岡崎くんは目を丸くする。俺は安心させるように笑顔を浮かべた。