顔を洗ってさっぱりすると、エプロンを外したアッキーが既に席に座っていた。向かいに座ると、手を合わせていただきますと言う。
 丁度良い焼き加減のトーストにイチゴジャムを塗って一口。

「あんま時間ねーから、早めに準備しろよ」
「何時からだっけ?」
「九時から」

 俺は久しぶりに年の近い奴らが多いところへ行くななんて考えながらトーストを口に含む。今の俺を見ても分からないだろうし、行く高校は前住んでいた隣町だから、会う可能性は低いだろうと思っている。会ったところで、あの人以外は何とも思わないけど――。
 俺が実家に戻らずここにいるのは、距離の問題もあるけど、一番の理由はアッキーがいるからだ。そして高校に行くことになったのは、お祖母ちゃんが提案してくれたから。それを聞いたアッキーが俺に見返すチャンスが来たな、と言ったのだ。会うことはないけど、気持ち的な問題だ。
 俺は欠伸を噛み殺しながら、これから始まる高校生活を思い浮かべて目を閉じた。



「なあ、アッキー…」
「なんだ?」
「何やら視線を感じませんかね…」
「お前も? ……やっぱ見られてるよなぁ」

 北海道にいた何倍の人の視線がびしびしと体に突き刺さる。…これ、アッキーの明らかに校則違反の見た目が悪いんじゃないのか? その思いを込めてアッキーを見ると、肩を組まれた。その手でぐりぐりと頭を擦られる。何故か黄色い声が上がる。そっちを見ると、更に女子の声が騒がしくなった。訳が分からない。

「アッキー痛い」
「うっせー。この視線、お前のせいでもあるんだからな?」
「ふーん。でもアッキーのその真っ赤なヘアバンドと大量のピアスと金髪には負けるよね?」
「……ソーデスネ」

 俺はアッキーの肩に回った腕を退けると、少しズレた眼鏡を上げた。

「えーっと、岡崎…岡崎…」
「木島はっと…あ、見っけた。お前の名前もある」
「え? マジ? 何組?」
「四組」

 俺はアッキーと同じクラスということにホッと息を吐く。人に慣れたとは言え、北海道にいた時より人が何倍もいるし、やっぱり友達がいた方が嬉しい。
 俺たちはハイタッチをして教室に向かった。