「……ま、そんな感じ! 俺はここに来て良かったし、あんま気にしなくていいからな。今の話。お前が遊ばれていた奴にギャフンと言わすこともないまま逃げてきたのは気に入らねーけど、お前が来てくれて嬉しいよ、俺」

 ニッと笑う晃生くんをじっと見つめて、僕は息を飲む。……僕も、こんな風に笑いたい。僕も、晃生くんみたいに…辛い過去を笑って話せるようになりたい。こんな性格を直したい。……変わりたい!

「晃生くん!」
「うぉっ!? え、ど、どした?」

 急に立ち上がって声を張り上げた僕を見て目をパチパチ瞬かせている。僕は興奮したまま、掴みかかる勢いで晃生くんに顔を近づけた。

「僕、変わりたい! 晃生くんみたいになりたい!」
「…え、俺?」

 晃生くんがキョトンとした顔で僕を見る。僕はドキドキと煩く心臓を鳴らしながら、晃生くんの言葉を待った。

「……いよーし! 分かった! 着いてこい、あの夕日までダッシュだ!」
「…は、はいっ!」

 晃生くんが笑顔になり、僕も口を一杯開けて笑う。残念ながら夕日が出る時間じゃなかったけど、土手沿いを走り回った。
 その日から、僕の第二の人生が始まったのだ。



「――い、…いっ! おい、起きろ寝坊助!」
「ごふっ。…な、何? 何が起こったんだ、今」

 頭が痛いんだけど、と言うと、呆れた声が降ってきた。

「…今俺が殴ったからな。目、覚めた?」
「あ。アッキー、おはよう」
「はよ。トースト焼いてるから、顔洗ってこいよ」
「分かった。いちごジャムね」
「へいへい」

 俺は面倒そうに溜息を吐くアッキーを見送って体を起こす。…見慣れない部屋だ。家具も新しい。カレンダーを見ると、今日の日付に丸がしてあった。更に、入学式と赤い文字で書かれている。そこで漸く、ここがどこだか分かる。俺は戻ってきたんだ…この街に。
 何だか長い夢を見ていた気がする。俺がまだ根暗で太っていた頃の。変わりたいと思って、まずは一人称を変えたんだっけ。えーと、それから痩せる為に走り込みとか畑仕事とかやって、チビッ子たちとか村の皆と仲良くなって…。俺、本当に変われたんだなと実感する。因みにアッキー呼びはチビっ子たちのが伝染った。
 そろそろアッキーが怒りかねないので、俺はのろのろとベッドを下りた。あれから成長期が来たのか知らないけど、あんなにも小さかったのに今では平均より少し高いくらいにまでなっている。あと、アッキーたち曰く、俺は中々いい顔をしている、らしい…。自分で顔をまじまじと見てもよく分からない。まあ、あの頃よりは数倍マシだとは思ってるけど。