「んー…ちょっと長くなりそうだがら、そこ座るか」

 晃生くんはそう言うと、田んぼの先にある土手を指差した。雑草の上に腰を下ろすと、小石を拾って川に投げ入れる。小さく数回跳ねたそれがポチャンと音を立てて沈むと、晃生くんが口を開いた。

「俺はさー…小学校で問題児みたいに扱われててさ。別に暴力振るったりとか人のモン壊したりとかはしてなかったけど、俺こんな見た目じゃん? しかも口も悪いからすげー浮いてて、何か起こったらいつも俺の所為にされてた」
「あ…」

 僕は、その光景を浮かべて思わず声を漏らす。晃生くんも、孤立してたんだ…。それに、今の口ぶりだと小学生の頃から髪を染めていたということになる。いつ染めたんだろう。親は、何も言わなかったのかな…?
 晃生くんは僕の顔を一瞥すると、川をじっと見つめて呟く。

「…俺の両親、入学式の日、事故で亡くなったんだ」
「えっ……!?」

 予想外の言葉に目を見開いて晃生くんを見る。入学式の日って…そんな…。両親、二人とも?

「忘れ物しちゃったから、一度帰るねって。母さん足が悪かったから父さんが俺を学校に置いて一緒に家に帰ったんだ。慌ててこっちに来てたらしくて、信号無視の車とぶつかったんだって。……忘れ物っていうのはカメラだったらしいんだ。大事に持ってたって。…そんなの、態々取りに帰らなくて良かったのに」

 晃生くんは体操座りをして顔を膝に埋める。涙声で、体は少し震えていた。辛いことを思い出させてしまった。僕は俯く。ズキズキと胸が痛んだ。
 ず、と鼻を啜る音がした。

「周りの奴は俺のこと可哀想だ何だって同情してきた。確かに辛かったけど、俺はそんな顔を向けられたくなかった。だって、俺が俺を可哀想な奴だって認めたくなかったから。……それに親戚の奴。あいつら、誰が俺を引き取るのかって、そんなことばっかり話しやがる。母さんたちの死より、お荷物を誰に押し付けようかっていう心配してさ」

 僕は顔を上げて、晃生くんを見る。晃生くんもいつの間にかこっちを見ていて、見つめ合う形となった。

「だから願い下げだって言ってやった」

 にやりと笑う晃生くんに口をぽかんと開けたまま静止する。…え、えっと…? 願い下げだって、ええええ…?
 晃生くんは悪戯っ子のように笑う。

「あと、母さんが金髪だったから髪染めて、穴も開けた。因みにこのピアスは父さんが愛用してたやつな!」
「な、なるほど…」

 晃生くんは強い。逃げてばかりの僕より、遥かに。僕よりずっと、辛かったはずなのに。自分がとんでもなく惨めに思えてきて、体を縮こませる。