僕の疑問の浮かんだ顔に気がついたらしい木島くんはえーと、と言葉を続ける。

「一応学校はあるぜ。一クラスしかねーけど。あと年齢がごちゃ混ぜ」
「え、え、じゃあ…勉強はどうやって…?」
「基本的にテキストやってる。分からないところは誰かに訊く」

 そんな学校、本当にあるんだ…。何だか、本当に田舎に来たって感じだ。あれ? そういえば……。

「あの…木島くんって、訛ってないんだ、ね」

 疑問に思ったことをそのまま告げると、あー、と歯切れの悪い言葉が帰って来た。ど、どうしよう。訊いて欲しくないことだったのかな…。焦る僕を安心させるように、田んぼを見ながら木島くんが笑う。

「俺も訳あってここに来た奴だからさ。あ、あと晃生でいーよ」
「訳…」

 僕はそれだけ呟いて木島くんの横顔を見る。流石にそれは、訊いて欲しくないだろう。っていうか、僕になんて話したくもないかもしれない。

「……って、ええ!?」
「え? 何!?」

 突然叫んだ僕を目を丸くして見る。どうしたんだという顔つきの彼に、僕こそどうしたんだと訊きたい。

「あ、あ、晃生くんって呼んでいいの!?」
「は…? んなこと? 俺がいいって言ってんだからいいに決まってんだろ。チビどもにはアッキーって呼ばれてるからそれでもいいぞ」
「そそそそんな恐れ多い!」

 あわあわとしていると、木島くん――晃生くんがおかしそうに笑った。




 田んぼに挟まれた道を歩き続けて何分経ったか、晃生くんがそういえば、と話しかけてきた。

「俺の育てた奴食った?」
「あ…プチトマト?」
「そうそれ。どう?」
「お、美味しかったよ!」
「マジ? やったね。俺が心を込めて育てたのだからな。旨くねーはずないか」

 嬉しそうに笑う晃生くんに、僕の顔にも自然と笑みが浮かぶ。それにしても、晃生くんはどんな訳があってここに来たんだろう。絶対に分かってることは、僕みたいな理由じゃないってことだ。
 僕は意を決して、晃生くんに話しかける。

「ぁ、あの、…い、嫌ならいいんだけど! さっき言った訳があって来たっていうのは…」
「気になる?」

 晃生くんの言葉小さく頷く。少し俯き加減に様子を窺っていると、晃生くんは困ったように眉を下げた。

「あんまいい話じゃねーよ?」
「え…話してくれるの…?」

僕は目を見開いて晃生くんを見つめた。