「お前らなぁ…! いつもいつも不意打ちで攻撃してくんな!」

 少年は彼女たちを睨みつけたけど、双子はキャーキャーと楽しそうに笑うだけで全く怖がっていない。というか僕だけが怖がっている。

「したっけー!」
「したっけねー!」

 よく分からない言葉とともに外へ飛び出して行った双子。それを呆れたように見る少年。
 したっけ、とは一体どういう意味なのだろうか。

「……サヨナラ」
「え?」
「したっけ、っていうのはサヨナラって意味だよ」
「え、ぁ、な、んで」
「お前が不思議そうな顔してたから」

 僕ははっと顔を押さえる。醜い顔を晒してしまっただろうか。怖々と少年を見ると、何かを考えるように僕をじっと見た。さっと視線を逸らす。少し、あからさますぎてしまった。

「お前、ちょっとこっち来い」

 その言葉に僕はおどおどと視線を揺らす。舌打ちの音に、やっぱり僕の態度は人を不機嫌にさせちゃうななんて落ち込んだ。

「おい、聞いてる?」
「え、あ、はいっ!」
「じゃ、来て」

 ふいと僕から視線を外してどこかへ消えていく背中。これ以上苛立たせるわけにはいかない。僕は決して体重の所為だけではない重たい体を立たせて、背中を追った。




 そして連れて来られた畳の部屋で、どうしてここに来たのかと訊かれた僕は、話したのだった。本当はただ嫌なことがあって、とだけ言ったんだけど、全部話せとばかりに睨まれたんだ…。
 目の前で溜息を吐かれ、びくりと震える。

「お前、馬鹿?」
「……っ」

 僕は予想していた言葉に自然と涙目になる。きっと嫌われた。最初から仲良くなれるとはそんな恐れ多いこと思ってなかったけど、でも。

「何でやり返さねーんだよ」
「え?」

 予想外すぎる言葉に吃驚して少年を見る。少年の顔は呆れたもので、良く向けられた侮蔑のものではなかった。

「んなことされて悔しくねえのか! お前が怒らねえのが不思議でならんわ! 代わりに俺が怒っとくけど!」

 何故僕の代わりに怒っているのか分からない。けど、僕の為にしてくれているのだろう…か?
 何だか嬉しくなって笑みが漏れる。

「お」

 ぷりぷりと怒っていた顔が消えて、今度は目を丸くする少年。

「お前、笑った方がいいな」
「わ、わわっ」

 わしゃわしゃと髪を掻き混ぜられて、僕は非常に混乱した。こんな風にされたのは初めてでどうしたらいいか分からない。僕はチラリと上目遣いに少年を見ると、笑顔だった。喜びとか、恥ずかしさとか、色々なものが混ざり合って顔が熱くなる。

「俺、木島晃生。宜しく」

 人生初の、恐らく僕とは見ている世界が違うであろう友達が出来た瞬間だった。



木島 晃生(きじま あきなり)

北海道で出会った圭の友達1号。
派手な出で立ちで口も悪いけど、面倒見のいい性格。