――げ。
 俺は瞬時に顔を顰める。翔太も俺の様子に気がつき、視線を辿る。

「あ…副会長」

 翔太はクソ副会長を少し気まずそうに見る。仕事をしていないと聞いて、それを信じているわけではないが、俺が嘘を言っているようにも見えなかった。それに、良く自分のところへ来るし、もし仕事をしていないのなら自分の所為ではないのか――十中八九、こう考えていることだろう。
 クソ副会長は俺を親の敵でも見るかのように睨むと、ついと翔太に視線を移した。にこりと笑う。それに対し、ぎくりと翔太の肩が震え、視線が逸らされると、胡散臭い笑顔が固まる。思わず噴き出した。
 しかし、つかつかと早足で近寄ってくるのが見えて、俺は頭を抱えたくなった。だから、自分の影響力を考えてくれよ。と呆れている間に、すっかり人も増えた食堂内で翔太への誹謗中傷と視線が強くなる。これじゃ空音の折角の気遣いも無駄。

「副会長」

 空音が少し慌てた様子でクソ副会長の前に立つ。食堂がしんと静まる。クソ副会長は苛立ちを隠して笑みを貼り付ける。

「なんでしょうか、空音」
「このような場で一般生徒に話しかけるとどうなるのか、お分かりでしょう?」

 うわ、あいつクソ副会長に敬語使ってんの? 俺なら絶対無理だ。生理的に無理だ。
 俺が感心していると、クソ副会長は笑みのままふ、と笑う。

「好きな人に会いに行くのがそんなにダメなことかい?」

 ダメに決まってんだろーが。俺は直ぐさま心の中でツッこむ。きっと空音も同じこと思っているだろう。顔が怒りで引き攣っている。
 つーか、さり気なく告白してんだけど。どんな神経してんの? 翔太を見ると、困ったような顔で俯いていた。そこには告白を恥じらう様子などまったく感じられない。はい、クソ副会長ふられるの確定ー。

「仕事をしていて、且つ親衛隊とちゃんと話し合っているなら文句はありませんけど」

 ぐっと押し黙る。空音の刺々しい言葉にうんうんと頷く。それだったらまだ俺も…ライバル、みたいな感じで思ったかもしれないな。もしもの話だ。

「なあ…淳也。本当に副会長って」
「…ん?」
「いや、なんでもない…」

 目を伏せる翔太の頭をぽんぽんと叩く。本当は、この場でなければ、抱き締めたかったところだけど。