(side:翔太)

 淳也が部屋に戻ってしまい、会長と二人きりになってしまった。最近の…っていうか、ここに来たばっかりだけど、俺感化されてきてるかもしれない。会長を見るとちょっと落ち着かないっていうか…。チラリと横目で会長を見る。会長はじっと淳也の部屋を見ていた。意味の分からない痛みが胸を襲う。
 会長のことは、初めて見た時から凄く格好良いなと思っていた。容姿は勿論だけど、背筋がピンと伸びていて、存在感がある。そんな人物が俺みたいな奴に構ってくれるなんて、最初は恐れ多いし会長に憧れている皆に申し訳ないと思っていた。でも、会長を見ていて分かったことがある。……会長は、俺を本当の意味で好いていないということを。誰も自分の壁を壊すな、というように拒絶しているように見えた。俺に構うのは何でなんだろう。来たばっかりで何も分かってない奴だから? それとも俺が気に入らなかったから? 理由を考えても分からない。

「あの、会長」
「あ? あぁ、どうした?」

 ハッとしたように俺の方を向いて笑みを浮かべる。何度も見た、上辺だけの笑み。俺は切なく思いながら、それを隠して笑い返す。

「さっき、淳也の落とし物拾ったって言ってましたけど、何だったんですか?」

 さらっと口から出たのは、どうでもいい話題。会長は少し怪訝な顔で俺を見て、どうでも良さげに言う。
 
「食材とか入ったスーパーの袋だ」
「えっ、ど、どうやって落としたんだそれ…」

 もしかして、言葉の綾でスーパーの袋を"落とした"んじゃなくて、"忘れた"だけ? 俺が首を捻っていると、ぷっと噴き出す声が聞こえる。

「あいつ、放心してたからな」

 あくどい顔じゃない――普通の笑み。それを見てどきりと胸が騒いだ。俺に向けられた笑みではなく、これは……淳也に向けて?

「ほ、放心って…」
「あー、まぁ、色々とな」

 少し決まりが悪そうに頭を掻いて話をはぐらかされた。何があったんだろう。でも、聞けないよな、これは…。

「んじゃ、犬で遊んだことだし俺はそろそろ帰る」
「え、も、もうですか?」

 言ってから、しまったと慌てて口を閉じる。これじゃ、帰って欲しくないと言ってるのと同じだ。かあ、と顔が赤くなる。

「あんまり遅くまでいると迷惑だろ? また明日な」
「は、はい…」

 会長は俺の頭を乱暴に撫でると、にやっと笑って玄関の方へと行ってしまった。
 俺が帰ってきてから直ぐに帰るなんて…、それってまるで、俺が邪魔したみたいな…。いや、会長の淳也を見る目は別に好きって感じではなかった。淳也も会長のこと良く思ってないみたいだし…。淳也は良い奴で大切な友人で、俺のことを好いてくれているのは分かる。だけど、でも…。
 俺は罪悪感と複雑な感情を抑えるように手をぎゅっと握った。