俺、もしかして余計なことに自分から突っ込んでしまった…?

「…何でって、言う必要がなかったから、だけど…」
「言う必要? あるだろ。俺が仕事してないって言えば俺の好感度を下げたかもしれねえのに」
「したって無駄だろ。俺はアンタが仕事をしてるってのを空音から聞いているし、翔太がそんな俺の一言でてめぇの好感度が変わるかよ」

 逆にバレたとき俺が責められる立場だろう。俺がそう言うと、へえ、と意外そうな声を上げる。

「空音と友人っつーのは本当だったのか」
「そんな嘘吐いてどうすんだよ」
「いいや。……お前、さっきも思ったけど意外に真面目だな」

 くつくつと笑う姿に溜息を吐く。クソ会長は俺の手を放すと、俺をじっと見た。何だ今度は、と少し身構えながら俺も見つめ返した。

「ありがとな、中村」
「……っ!」

 初めて呼ばれた自分の名前。そして初めて見た普通の笑顔。俺は不覚にも見惚れてしまい、じわじわと顔に熱が集まる。

「お、俺の名前…」
「ああ、中村淳也だろ?」
「し、知ってたのかよ!」

 じゃあ犬って呼ぶなよ!

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ」

 にやりと笑うその顔には先程の笑顔は微塵も残っていない。それを少し残念に思いながらも、俺は何だかほっとした。平静を保てないかもしれないから――。
 しかし、こいつ、ちゃんと礼を言える男だったのか。仕事もちゃんとしてるし、意外にちゃんとしているのだろうか。そう思ったところでさっきのことを思いだし、いやいやと首を振る。急に首を振った俺をクソ会長が不審そうに見た。

「ただいまー」

 がちゃ、という音と共に翔太の声が聞こえる。足音が近づいてきて、リビングのドアが開かれた。

「あ、会長。さっきぶりです」
「おう」

 翔太がクソ会長の姿を捉えた時、微妙に顔が明るくなった気がした。教室に来た時といい…もしかして、翔太は…。胸がぎゅっと切なく締まる。

「…俺、部屋戻るわ」
「え?」

 顔を見られたくなくて俯きながら言う。翔太が不思議そうな声を出したが、それには答えず早足で自室へと入る。帰って来たときと同じようにベッドに飛び込んだ。