今日は酷く疲れた。部屋に戻ってベッドに飛び込む。ふわりと柔らかな感触が俺を包み込み、ふうと息を吐く。

「そうだ、食材入れねーと…あ?」

 ……あれ、俺買ったやつどこやった? 顔を真っ青にして体を起こす。無意識に冷蔵庫に入れたり台所に入れたりしたのかと思ってリビングを探してみうが、どこにもなかった。そういえば、と談話室のことを思い出す。…あの時、ずっと持ってたっけ?
 まさか、と思った時に携帯が震える。翔太からだった。

『さっき会長が淳也の落とし物を拾ったとか言ってたぞ。もしかしてもう部屋に来た?』
「……げっ」

 一番最悪な展開になってしまった。俺はさっきの一件で折角上がった微々たる株が以前より下がったので、もう関わりたくない。しかし、――。

「くそっ…」

 顔を歪めたところでピンポン、と音が鳴る。翔太は鍵を持っているから、翔太ではない。戸叶とか空音は連絡を入れて来るはずだから、この音はクソ会長である可能性が高い。どうしようと迷っていると、急かすようにもう一度音が鳴る。俺は仕方なくドアに向かった。ドアノブに手を伸ばす。
 ガチャ。

「は?」

 鍵の開く音がした。え、何で開いた? 
 呆然とする俺の目の前でドアが開く。

「よう、犬」
「なっ…」

 何で悪びれた様子もなく笑ってんだこいつ! つーかやっぱりてめぇかよ! 俺はそういえば会長の鍵はマスターキーだったなと思い出す。でもそれは緊急時しか使っちゃいけない決まりだろうが。

「落とし物、届けに来たぜ? つーことで、部屋入れろ」
「あぁ!? 意味分かんねーこと言ってんじゃ…!」
「お前に拒否権はない。おら、退け退け」
「ちょ、てめっ…!」

 俺を強い力で押しながら部屋に無理矢理入ってくるクソ会長。顔が引き攣る。どんだけ横暴な人間だよこいつぁ…!

「犬。お客様に茶は?」

 我が物顔でソファに座ったクソ会長はにやりと笑う。だから何様だよこいつは! こんなのがこの学校の頂点に立ってる男だと思いたくねえ…。

「…犬は茶なんて淹れねーだろ?」
「ハッ、認めんのかよ。じゃあ四つん這いで歩けよ」
「っ……人を馬鹿にすんのも大概にしろよ!」
「お前が弄り甲斐あるのが悪ぃんだよ。ま、翔太が帰ってくるまで付き合えよ」

 長居する気満々だよこいつ…。…今日は厄日か? げんなりとしながら、俺は本日数回目の溜息を吐いた。