駄々を捏ねる戸叶を芳名に任せて屋上を去る。まだ授業中らしく、廊下は異様に静かだった。

「あ、淳也」
「あん? あー…空音。何してんだよ、サボりか?」
「それこっちの台詞。お前またサボったの? あんまサボるなよな」
「戸叶に言ってくれ……」
「…っ、倒れたのか?」
「いいや、ピンピンしてる。呼び出されただけだ」
「そうか…」

 ホッと息を吐く空音。空音明は、中学の時からのダチだ。つまり俺と戸叶の関係をしっている奴の一人だ。空音は生徒会の書記を務めている。こんなところでサボっていていいんだろうか。……いや。俺は空音の手元を見る。どうみても書類だ。それに、空音の顔は少し見ない内に窶れた気がする。

「…空音、それ」
「ああ、これ? 書類だよ書類。なんで俺があいつの仕事しなきゃならねえんだ」
「やっぱり、生徒会の……ん? あいつ? あいつら、じゃなくて?」
「まあ確かにあいつら、と言った方が正しいけど、仕事全くしてない奴は一人だよ」

 心底軽蔑しているという顔で舌打ちをする。相当腹を立てているようだ。
 全くしてない奴…あのクソ会長だろうか。副会長の奴はまだ仕事をやっていそうな雰囲気はある。

「どいつだ?」
「…雨谷紫炎。――副会長だよ」
「えっ!?」

 目を見開く。え、じゃああのクソ会長…仕事してんの? 意外すぎる。翔太が来る前から遊び人のイメージが根強かったのに。

「まあ会長も俺に押し付けるけど、ちゃんと自分じゃなきゃ処理できない仕事はやってくれるから助かるんだ。いや、勿論遊んでないで全部して欲しいけど。でもあいつはマジ許さん。殴りたい」
「お前ならやりかねん。やめろよ?」
「わあってる…。あー、仕事落ち着いたらどっか行こうぜ。ストレス発散したい」
「おー。じゃあな、あんま無理すんなよ」
「お前も」

 パシンとハイタッチをして踵を返すと、首だけ振り返ってひらひらと手を振った。



 …それにしても、色々疲れた。主に戸叶の件で。
 げっそりして教室に帰ると、更にげっそりする光景があった。

「…何してんだよ、テメェら」

 なんで授業中にクソ副会長(これからこう呼ぶことにする)とクソ会長がいるんだよ、意味分かんねえ。