(side:日向)


 俺の母親と淳ちゃんの母親は、幼馴染であり、親友らしい。だから、必然的に俺と淳ちゃんが会うことも多かった。更に、幼稚園も同じ所に入れられた。病弱な俺と違って淳ちゃんは活発な子で、よく俺を連れ出しては怒られていたっけ。そして俺が一度倒れてから、大泣きして何度も謝られたんだよね。
 俺は実は最初、淳ちゃんが怖くて、嫌いで仕方なかった。それだけじゃない、妬みもあった。あんなに元気な体が俺にもあったら。更に俺は消極的でいつも俯いてばかりだったから、明るい淳ちゃんの傍にいたくなかった。謝られたあの日から、淳ちゃんは俺を連れ出すのをやめて、絵本とか積み木とかをするようになった。それでも俺は、淳ちゃんが好きではなかったのだ。



 小学生に上がってからも俺と淳ちゃんは一緒にいた。

「おれ、日陰って名前がよかった…」
「何で?」
「だって、おれは…暗いし、弱いし…影のほうが、似合ってる」
「日向は影なんかじゃない!」
「え?」
「おまえの笑った顔見ると、すっごい胸んとこがポカポカするもん! それに、一緒にいると落ち着くし! おまえ、えーと……そう、太陽って感じ! おれ、日向の笑顔大好きだ」

 俺の中で、太陽はいつも淳ちゃんだったから、その言葉は衝撃的だった。それに、淳ちゃんは親に言われて仕方なく他の友達との付き合いもなく、俺と遊んでいると思っていたから。俺はその時、凄く淳ちゃんのことを好きになった。まあ流石にその時は恋愛感情ではないけどさ。でも、時が経つにつれて、ね。
 俺がいつもヘラヘラしているのは、淳ちゃんが笑顔が好きだと言ってくれたから。俺が自分の名前を好きなのは、淳ちゃんが俺を太陽みたいだと言ってくれたから。単純だと我ながら思うけど。淳ちゃんが心配してくれるなら、この弱い体も悪くはない。淳ちゃんを護る男らしい奴になれないのは悔しいけど。

「おい、戸叶?」

 俺はハッとして顔を上げる。淳ちゃんが心配そうな顔で俺を見る。俺はなんでもないと伝えるために笑みを浮かべた。

「日向」
「あ?」
「名前、昔みたいに呼んでよ」
「な、なんだよいきなり」

 狼狽えて顔を逸らす淳ちゃんに抱き着く力を強める。俺は淳ちゃんが力づくで俺を引き剥がさないことを知っている。

「ねえ、呼んでよ〜」
「……っ、ひな……た」
「ん?」

 よく聞こえないってニヤニヤ笑うと、顔を真っ赤にさせて俺の頭を叩いた。優しい手つきに笑みが漏れる。淳ちゃんは優しくて甘い。

「……一回だけだからな。…、日向」

 優しい淳ちゃんの声に、俺は目を閉じた。
 ――俺は淳ちゃんを誰にも渡したくない。誰かが奪おうとするなら。俺はそれを何としてでも邪魔してみせる。

「寝んのか?」
「うん。…おやすみ」
「はいはい、オヤスミ」

 ねえ、淳ちゃん。