人気者にはファンクラブのような組織の親衛隊というものが作られる。しかしファンクラブというより、その実態は宗教団体だ。崇拝し、無礼なことをした者や近づいた者には制裁が加えられる。俺が被害に遭っていたのもこれだ。
 俺の父親の話をしよう。俺の父親は勝負事が大好きで、いつも色々な賭けをして遊んでいた。賭けといっても、金を賭けているわけではない。その日の夕飯のメニューとかどうでもいいものだ。俺はいつもそれに付き合わされていたんだが、父親のこともこうやって遊ぶのも嫌いじゃないから普通に乗り気だった。
 そんな父親はある日言った。

「正体を隠したまま三年間生徒会に所属していたらお前の勝ちな」

 意味が分からなかった。俺は一応パーティとか出る身なわけだから、誰か一人俺のことを知っていてもおかしくはない。名前でピンとくる奴もいるだろう。どうしろというんだ。つーか三年間って長すぎだろ。そう思ったが、賭けられたものが俺が今まで欲しくてたまらなかった限定品だったので、仕方なく受けた。
 姉に相談してみると、何故か興奮した様子でモジャモジャとした鬘と瓶底眼鏡を取り出してきた。勿論断ったけど。当たり前だろ、そんなもん何で着けなくちゃいけねえんだよ。
 しかし、顔を見られたらバレる可能性もある。センターで分けていた髪を正面に下ろすと、鼻の下まで長さがある。ということで、今のこの髪型となったわけだ。そして、面倒事をなるべく避けるために無口になった。心の中ではボロカスに言っているわけだが、あいつらは全く気づいてないんだろうなと嗤う。
 ――でも、それも終わりだ。俺はリコールをされた。あの忌々しい時期外れの転校生の所為で。




 性格を偽ることも髪で顔を隠すことも止めた俺は、廊下を大股でどしどしと歩いていた。今まで抑えてきた怒りが爆発しそうだ。あの転入生が来てからというものの、あいつらは仕事をしなくなった。
 ふと視線を窓の外を見下ろすと、あいつらと転入生が笑って過ごしていた。チッと舌打ちをする。
 転入生は可愛らしくて優しい心の持ち主として学園内でも人気が高い。転入したその日にあいつら――俺が所属していた生徒会の役員を俺を除く全員を惚れさせ、最初は親衛隊が黙っていなかったが、転入生の笑顔にだんだんと絆されていった。しかし俺には見えている。あの転入生のほくそ笑んだ顔が…。
 あの転入生が俺に異様に絡むもんだがら、かなりの反感を買った。そんなことで凹む俺ではなかったから普通にスルーしていたけど。

「うぜ」

 もう一度舌打ちをしてあいつらから視線を外し、ガシガシと頭を掻いた。