(side:駿)

「くーっ! 旨い!」

 スプーンを握りしめてとろけるプリンに舌鼓を打っていると、はああああという隣から深い溜息。

「何だよ十夜」
「…深刻な顔で話があると言ってきたと思ったら…プリンが食べたかっただけかよ」
「あそこでプリンが食べたいなんて言えるわけねーだろ? でも俺も限界でさ。まあいいじゃねえか。お前も休憩したかっただろ?」
「お前なぁ…はあ…」
「あまり溜息ばっか吐いてると幸せ逃げるぞ」
「誰の所為だよ!」

 くわっと開かれる目。俺はそれを笑いを堪えながら見て、プリンを掬うと口に運ぶ。呆れたように見られたが、その表情は見慣れているので特に気にしない。

「…そろそろ仕事に戻らないと」
「あー、そうだな。副会長は仕事人間だからな」
「…煩い」

 十夜は俺を睨みつけて、部屋を出て行った。俺も早いところ食べねえとなとプリンを食べるペースを速める。

「……旨い」

 こんな姿、やっぱり誰にも見せらんねえよなぁ。堂々と食べれないことに、少し残念に思った。



 生徒会室に戻ると、俺は目を見開く。

「稲森…?」

 え、すげえ吃驚した。入口で固まっている俺を七城は苦笑して見て、何故か稲森は得意げに俺を見ている。十夜は下を向いているが、きっと最初戻ってきたときは俺と同じ反応をしたんだろうな。
 ……っていうか、来てるなら仕事しろよ。と思ったが、よく見たら手元にはちゃんと書類が置かれている。更に驚きだ。明日は槍でも降るか?
 いつまでも立っているわけにもいかないので、早足で自分の席へと行く。ビシビシと感じる視線。いつもより強い気がする。俺は何か変なところでもあるのか(例えば口元に食べかすがついてるとか)とさりげなく口元に手をやるが、別に何もついていない。
 ……じゃあ何だ? 何だか探るような視線に自然と眉間に皺が寄る。

「…稲森、さっきから何だよテメェは」
「アンタ、……いや何でもない」

 そういうの一番気になるだろうが!
 俺は顔を引き攣らせた。マジでこいつわけわかんねえわ。視線は気になったが、仕方ない。さっさと仕事を終わらせるか、と視線を落とす。