「片桐か……。あいつと親しいのか?」
「……別に」

 片桐とはあの男のことだ。忌々しい名前なのであまり呼びたくない。
 風紀委員長の視線がまるで非難するようなものに感じて俺は顔を逸らす。

「それで、俺に何か用?」
「…あのなあ、年上には敬語使えよ」

 何度も言われた言葉。それでも俺は従うつもりはない。

「ウザ」
「……相沢も何で指導しないんだか…」

 はあと溜息を吐く風紀委員長から出た名前に反応する。何でそこであいつの名前が出てくるんだ…って、会長だからか。俺は認めてないけど。

「まあいいや。本題だが、相沢に最近変わったところはないか?」
「…変わったところ?」

 顔を顰める。風紀委員長の意図が分からない。しかも、何で俺に訊くんだろう。風紀委員長は少し声を潜ませる。

「…俺の憶測だがな、先日のあの狐面、あいつは相沢と何らかの関係があるんじゃないかと思ってる」
「はあ!?」

 目を見開いて風紀委員長を見た。一瞬驚いたように目を丸くした後、憶測だぞ、と念を押す。

「何でそう思ったわけー?」
「前に狐面の処罰をどうするか聞いたとき、不自然な反応をしたからな。それだけだと言ったらそうだが、あの時から避けられてるし」
「そんなバカな…」

 避けられてるのはお前が嫌われてるからだろと笑いたくなった。あいつが狐面と関わっている? そんなわけないだろ。甘党部? くだらねえと鼻で笑いそうな奴だ。
 そういえば、……あいつの口から甘党部のことについて聞いたことないな。俺はまさかな、と顔を引き攣らせる。

「まあ兎に角、変なとこないかチェックしてろよ」
「何で俺?」
「…七城と佐武に頼んでやってくれると思うか?」

 俺は無言で首を振った。だからと言って俺もやりたくないけど、そんなこと。

「じゃ、頼んだぞ。――あと、お前、ちゃんと仕事しろよな」

 ニヤッと笑って風紀委員長は踵を返す。その背中を蹴りたくなる衝動に駆られた。



 珍しく自分から生徒会室に赴けば、七城が幽霊でも見たような顔で俺を見る。失礼なやつだな。
 ざっと見回すが、副会長とあいつの姿はない。しかし荷物はあるので来ているんだろう。俺は席に座ると、とりあえず筆記用具を出した。そしてぼんやりと空席であるあいつのデスクを見つめる。

「おいおい、来たからには仕事しろよ」

 七城が呆れたように話しかけてきた。

「今からすんの」
「…あ、そ」

 こいつ、本当にあいつ以外にはそっけないよな。別に仲良しごっことか求めていないからいいけどさ。