「…まあ、なんとかなんだろ」

 どうせもう決まったことだ。うじうじ悩んでいても仕方ない。かなり渋りながら出た言葉だったが、俺がそう言うのが意外だったのか充と吉貴は驚いたように俺を見る。

「大丈夫か?」
「……。まあ…」
「…そうか」

 あれ?
 俺が他人と関わることにもっと喜ぶと思っていたが、何だか微妙な顔をしている。眉を顰めて首を傾げると、ハッとした顔をして取り繕うように笑った。

「まあ、頑張れよ」
「おう」
「…吉貴様、流馬様を頼みますね」

 口調が変わった充に、吉貴は数秒間を開けて頷く。おい、どうして俺が頼まれる側なんだよ。こいつに面倒なんて見てもらいたくねえ。もっとも、こいつも世話する気なんて全くないだろうが。
 充は一瞬鋭い目で吉貴を見ると、笑顔を浮かべた。

「では私は戻ります」

 えっ!

「も、もう戻るのか」

 さっききたばかりじゃねえか。不満そうな顔で見上げると、困ったように笑う。そして頭をわしゃわしゃと撫でる。男らしい手で撫でられるのは、相変わらず気持ちがいい。

「また来るから、な?」
「…おー」

 人間は嫌いだが、やっぱり充は好きだなあ、と思う。俺、充と二人暮らしなら喜んでするのに。むすっとして吉貴を睨むと、物凄い嫌そうな顔をした。くっそ、腹立つな!
 充が玄関の方へ歩いていくので付いていく。靴を履くのをじっと見つめながら、溜息を吐きたくなった。

「じゃあな」

 ドアが閉まる音が、重苦しく聞こえた。



 充のいなくなった家は急に温度をなくしたかのようだった。俺も吉貴も無言でそれぞれの時を過ごしている。俺は何だか落ち着かない気持ちで自分の手元を見つめていた。吉貴は本を読んでいる。
 吉貴に対して、先程までは苦手意識が少しだけ薄れていた。しかし、充に会ってから再び近寄りたくないという気持ちになっていた。そんな俺を不審そうに見ていた吉貴だがそれも数分のことで、今では全く気にしていなさそうだ。それはそれで何だか腹がたつような気がする。