「つーか…」
「そういえば、会長は何やるんですか?」

 ん? 何か今稲森が言いかけなかったか? 稲森が七城を睨んでいるが、七城はキラキラと光る笑みでこっちを見ている。不思議に思いながら、俺は口を開いた。

「俺はバレーだ」
「ぶっ!」
「え、バレー?」

 稲森が吹き出す。そして七城はきょとんとした。……俺がバレーやるのそんなに意外か? 先程から一人黙々と仕事をしている十夜に目を遣れば、無表情のままだった。しかし、あれは絶対に笑いを堪えている顔だ。俺には分かる。

「何でバレー? 似合わねー!」
「んだとコラ。何やろうが勝手だろ」

 そしてお前だけには言われたくない台詞である。
 別に俺は好きでバレーにしたわけじゃない。気がついたらバレーに丸つけられていたんだ。まあ球技はどれも得意だからいいんだけど。

「会長、俺応援に行きますね!」
「え、マジ? そりゃ嬉しい」

 ニコニコと笑う七城に釣られて俺も笑顔になる。対して稲森は何故かどんどん不機嫌になり、ずっとペンを回している。俺には稲森の感情の変化が予測できない。もうちょっと分かりやすく表現しろっての。口に出すってこの前言ったばかりじゃねーか。
 その点七城は本当に可愛い後輩だ。空気を明るくしてくれるし、しかも頼れる。まあ何でか稲森のことは好きじゃないみたいだけど。やっぱりだらしないからか? そういうの嫌いそうだもんな。

「会長、手を動かしてください。稲森も」

 十夜が突然口を開く。俺はげっと顔を顰めて手元を見る。そういえば先程から手が止まっていた。稲森は俺が注意する前から止めていたよな? いい加減仕事しろよ。
 俺はペンを持ち直してプリント一枚捲る。お、バレー希望者か。どいつだ――と名前を見たところで固まる。何度見ても相楽響と書かれた紙を握りしめて、舌打ちをする。何であいつバレーなんだよ!
 絶対騒がしくなる、とげんなりしていると、十夜があからさまに咳払いした。十夜を見ると、ぐっと眉間に皺を寄せてこっちを睨んでいる。

「仕事してくださいと先程言ったばかりなんですが」
「うっせえ。俺は今テンション下がってんだよ」

 はあ? と言いたげな十夜の表情。俺はそれを無視して稲森を見る。稲森はこんな時だけ仕事をしていた。これじゃ俺だけがサボってるみたいじゃねーかと溜息を吐く。