「あー旨かった…」

 解散した後、俺は欠伸をしながら背伸びをした。横で呆れたように十夜が溜息を吐いている。

「お前、食ってばっかりだと太るぞ」
「うっせー。俺は太らない体質なんだよ」
「嘘吐け…」

 もう一度溜息が漏れた。俺は仮面の下から睨み、立ち上がって残った菓子を手に取った。

「よし、帰るか」
「ああ」

 部室のドアを開けて一度辺りを確認する。誰もいない。俺はほっと息を吐いて外に出た。
 俺たちの仮面の下は一番バレては不味いので、十夜の父親――理事長に頼んで警備の整った場所を提供してもらった。あまり理事長に頼りすぎると反感を買ったり、理事長と親しい人物と特定されたりするので、ほどほどにしなければならない。
 森の奥の小さな施設。俺たちは鍵を開けると素早くそこに入って仮面を取る。冷たい空気が当たって少し涼しい。置いていた鞄に仮面を入れた。

「ああ、そうだ。手、ちゃんと洗っておけよ」
「あー…そういえば舐められたな」
「そういえばじゃない。はあ…お前は相変わらず警戒心がないな」
「どういう意味だよコラ」

 そう言うと、残念な物を見るような目で俺を一瞥した後、肩を竦めて入ったドアの反対のドアから出て行った。何だよあいつ。警戒心がないって…んなことないと思うんだがな。
 首を捻り、俺も外に出た。森の中は暗く、薄気味悪い。俺は早足で自室まで戻った。



 前方からビシビシと視線が突き刺さる。俺は耐え切れなくなって、こめかみを押さえながら口を開いた。

「…おい、稲森」
「な、なんだよ」
「何だよはこっちの台詞だ。俺を見る暇があるなら手を動かせ」
「はあ!? 見てねーし。なあ、七城?」
「…見てただろ」

 七城はチラリと稲森を見て爽やか溢れる顔つきを少し歪ませて顔を逸らした。チッと舌打ちが鳴る。稲森は矢張りよく分からない。俺が嫌いなら見なければいいのに。
 俺はまあいいかとプリントに視線を落とす。先日行った球技大会のアンケートの集計をしているところだった。ざっと見た感じ、バスケが多いようだ。その中に稲森と七城の名前を見つけ、目を丸くする。

「稲森、お前卓球希望なのか」
「え? ま、まあそうだけど。それが何?」
「いや、意外だと思ってな」

 ふ、と笑うと一瞬目を見開いた後即座に顔を逸らして、ブス腐れた顔をした。

「アンタもどうせ似合わないとか言うんでしょ」

 吐き捨てるように言った。
 …うん、確かに似合わない。俺は軽く謝ってから、もう一度プリントに目を落とした。