「な、何だよその顔は」
「……別に」

 どう見ても別にって顔してねえんだけど、お前。俺はじっとりと睨めつけたが、これ以上怒らすと吉貴の持っている物を見ることができないから一応抑えておこう。

「で、それ何」
「…お前が俺の作った物食べて気絶したから、人の手が加わってない物持ってきた」
「え……」
「……つっても、一応人の作った物だけど。これは時間も経ってるし大丈夫かと思って」

 俺は目を見開く。素っ気なく渡された物は食パンと小さいケースに入ったジャムだった。確かにこれならまだ食べれる。自然と顔が緩み、パンを見つめる。な、中々良いやつじゃねえか、こいつ……へへ。
 顔を上げると、ぐっと眉を顰めて口を押さえた。まるで気持ちの悪い物をみたような顔だ。そして吉貴はそっと顔を逸らす。更に何も言わず部屋を出て行ってしまった。
 前言撤回だ。あいつは良いやつじゃねえ。

「…食べるか」

 ポツリと呟いて袋からパンを取り出し、ジャムを少量付けて囓る。違う環境で食べた所為か、いつもより旨く感じた。



 食事を終えてリビングのソファに寝転がっていた時。ピンポン、という軽快な音が響いた。俺は体を起こし、首を傾げる。

「今の音何だ?」

 初めて聞く音だった。そう言えば吉貴は鬱陶しそうに顔を顰める。何故そんな顔をされなければならないと俺もむっとすると、吉貴は立ち上がった。そしてそのまま歩き始めるから部屋に戻るのかと思って再び寝転がる。目を閉じて、結構この部屋の小ささにも慣れてきたなと考えていたら、頭にゴッという音と痛みが響いた。

「――ってぇ!」

 頭を押さえて目を開けると、見覚えのある顔が俺を覗き込んでいた。

「どうも、流馬様」
「充……!? は!? お、お前いつ来たの!?」
「今ですけど」
「……さっきの音だよ。呼び鈴」

 理解していない俺に溜息を吐いて面倒そうに説明する吉貴。さっきの音って……あの、ピンポンってやつ? えー…ダサ…。
 え、っていうか何で俺殴られたの?
 充を睨みながら体を起こすと、直ぐさま横に座ってきやがった。お前仮にも執事なんだから横に座るなよと思ったが、何だかんだ言って俺も、なんつーか…充恋しかったからいいけど。

「どうですか、流馬様」
「あー…」

 倒れたことを言ってもいいだろうか? いや、でもちょっと格好悪いよな。あれだけで倒れるとか。