部屋がしんと静まる。――反応がない。恐る恐る顔を向きを戻して吉貴を見ると、口を薄く開けて俺を見ていた。呆然とした表情を不思議に思って首を傾げる。吉貴は苦虫を潰したような顔をしてぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜると、そのまま去っていった。
 な、何だよあいつ! 俺が謝ったのにあの態度か! むかむかとした気持ちが湧き上がって枕に顔を埋める。ぐりぐりと顔を押し付けていたら、再び眠くなる。家にいた時も殆ど食って寝て運動して、また食って寝てみたいな生活だったからな。俺の世話は充たちがしてくれていたから、凄く楽だった。けれど、今はそうもいかない。……というのを、昨日まざまざと実感させられた。茶くらい自分で淹れられねえと駄目だよな…。それに、食事だって、――そうだ、あの料理は結局あいつが作ったんだよな…。倒れることが分かったらあいつも俺の分の食事なんて作らねえだろうし(っていうかそもそもあのテーブルにあった唐揚げが俺に作ったものかは定かではないが)、俺も食べたくねえし。そうなると食事を自分で作るしかない。だが、よく考えてみろ。俺が作れるはずなんかねえだろ。充に頼んでシェフが作った物をここに運んで貰うか…? 一応訊いてみることにするか。今日はここに来るらしいからな。
 …って、いや、待て。昨日は一食分だったが、一日三食だぞ? おやつもあるんだぞ? 充がそんな面倒なこと許してくれるか……? してくれねえよ、あいつ面倒なこと嫌いだから。それに、吉貴も嫌がりそうだ。……ハッ! 何で俺あいつの機嫌を気にしてんだ!?
 うおおおおお、と自己嫌悪して枕に先程より強く押し付けていると、部屋のドアが開いた。もしかしたら充が来たのかも、と思ったが吉貴だった。ベッドの上で暴れる俺をドン引きしたように見ている。屈辱感に顔が熱くなった。

「何だよ! 出てけ!」
「…あー、そう、じゃあいいわ」
「え」

 恥ずかしさに声を荒げて言うと、呆れたように溜息を吐いて用件も伝えず出て行きそうだった。手に何か持っている。俺はガバっと体を起こして慌てて吉貴を引き止めた。

「ま、待て。用件くらいは聞いてやろうじゃねえの」

 俺は吉貴が持っている物に興味があるわけであって、お前に出て行って欲しくないとか思ってねえからな!
 どうだ、と笑ってみると、吉貴の顔は今までにないくらい残念な物を見る目だった。何故だ。