(side:流馬)

 暖かい、そう思って目を開けると、ボヤける視界一杯に何かがある。一度瞬きして目を凝らすと、人の顔だった。一瞬にして鳥肌が立ち、バッと体を起こす。

「な、な、ななななな…」

 なんで吉貴がここで寝てんだよ! 混乱して視線を彷徨わせていると、有り得ないことに、手を繋いでいた。ぎょっとして目を見開く。外そうと手を振ると、吉貴が顔を顰めて唸り、目を開いた。目をゴシゴシと擦っている姿は今まで見た中で一番幼い。……そういえば、こいつ何歳だ。俺と同じくらいに見えるけど、…年上のような気もする。
 じっと見ているとバッチリと目が合い、お互いに硬直した。俺が何も言わず黙っていると、吉貴が先に視線を逸らして溜息を吐いた。

「な、んで俺の部屋で寝てたんだよ」
「はあ?」

 馬鹿にしたような顔をされ、俺は気分が悪くなった。何故そんな顔をされなければいけないんだ。むっとすると、更に吉貴は呆れた顔をする。

「お前、倒れたの覚えてないわけ。誰が運んだと思ってんだよ」
「――え」

 そういえば、と顔を青くする。あの後の記憶が一切ない。リビングで倒れたんだから、本来ここにいるはずがないんだ。――ということは、吉貴が運んでくれた…って、ことか…?
 意外な親切に俺は目を見開く。

「で、でも、直ぐに戻ればよかったじゃねえか」

 そう言うと、吉貴が黙った。おい、ともう一度声を掛けると少し迷う様子を見せた後、くそっ、と呟いて俺を睨みつけてきた。

「お前が握ってきたんだろうが」
「は…? も、もしかして…」
「手だよ手。俺だって好きでここで寝たんじゃねえ」
「うっ…」

 俺は何も言えず、俯いた。これは俺が悪い、よな…。

「あー疲れた」

 態とらしく関節をポキポキ鳴らす吉貴は、そのまま立ち上がって部屋から出ていこうとする。

「よ、吉貴!」
「…っ?」

 少し驚いた様子で振り返ると、視線が合う。俺はさっと顔を逸らした。

「あ、あの…ありがと、な」

 蚊の鳴くような声が出た。ただでさえ礼を言うのが苦手だというのに、更に恥ずかしかった。顔に熱が集まるのが分かる。