ボロボロで汚い服は洗濯されているのか、見覚えのない新品の服が置いてあった。これを着ろということだろう。俺は遠慮なくそれを着て無駄に広い脱衣所から出る。外には矢張り執事がいて、俺を見ると笑みを浮かべてこちらへ、と案内された。応接室と思われる煌びやかな部屋に入ると、先程の男。
 ……さて、これからどうなることやら。俺は促されたソファに少し緊張しながら座った。

「実はね、もう君にはバレていると思うんだけど、君に用があったんだよ」
「…はあ」
「だから勝手に君のことを調べちゃっていたんだ。そのことをまず謝らせてもらうよ。ごめんね」

 俺は目を丸くした。本当に申し訳ないという表情をして頭を下げたからだ。この家で一番偉いだろう男に頭を下げさせてしまい、冷や汗が流れる。

「あの、頭を上げてください」
「…ごめんね」

 もう一度謝罪を述べて顔を上げると、男はまだ眉を下げたまま懐を漁った。そして一枚の紙を俺に差し出す。

「僕は京嶋幸成といいます。これ、良かったら」

 長方形のカードは、名刺だった。京嶋――、あの、京嶋か。俺はよく知らないが、誰もが聞いたことのある名前だと思う。ということは、目の前にいること男は俺とは雲泥の差がある存在ってことだ。
 こんな男が、俺に用があるなんて怪しすぎる。

「で、俺に何の用なんですか」

 さあ、何を言われる? どんなことを言われても動揺なんてするか。俺は手をぎゅっと握って前を見据えた。

「由眞くん、君に僕の息子と暮らして欲しいんだ」

 ……はい?
 予想外過ぎた言葉に俺は一瞬真っ白になった。言われたことを一度頭の中で復唱する。――君に僕の息子と暮らして欲しいんだ。いやいや、復唱しても意味が分からない。何がどうしてそういう話になったんだ。そしてどうして俺なんだ。

「嫌です」

 理解できないが、これだけは言っておこうと思った。この男の息子ってことはそいつもボンボンってことだろ。ただでさえ人間という存在を疎ましく思うのに、金持ちなんて論外。絶対に嫌だ。
 睨むように見たが、男は俺の答えを予想してたかの如く平然としている。

「僕の息子もね、君と同じく、いや、君以上の人嫌いでね。ある時から全く家から出ていないんだよ」
「……はぁ」

 取り敢えず俺が人嫌いだと知っていることは流しておこう。調べたんならそのことを知っていても何らおかしくはない。だが、その息子が人嫌いなことと暮らすことと何の関係があるのか不明だ。俺の訝しげな表情に気づいた男は苦笑する。

「歳も近いし、同じ人嫌いだし、それに――」
「……それに?」
「君なら、流馬を任せても安心だよ」
「……っ?」

 …何の根拠でそんなこと、――この男は俺のことを、以前から知っている……? いや、そんなはずは…。
 喉に何かがつっかえたようなもどかしさに苛々した。

「どうだい?」

 真剣な顔で問われる。その息子に会えば、このモヤモヤが取れるかもしれない。俺は男を見つめ直して一度、頷いた。