当たり前だがここにはシェフがいない。いつもなら夕飯時に充が持ってきてくれていたが、その充もいない。更に先程怒らせてしまった為、仕方なく吉貴に頼るという方法も消えた。
 お、俺は餓死してしまうのか…? 横を向いてソファの上で丸くなると、酷く自分が孤独に感じた。人嫌いな癖に、孤独が嫌いってのもおかしい話だ。でも俺の傍には常に誰かが存在していたから、こんなに寂しい思いをしたのはかなり久しぶりになる。
 こんな歳になって情けない話だが、涙が滲み出てきた。腹が減っている所為でもある、これは。ごしごしと目を擦って涙を拭うと、目を閉じた。




「りゅーくん! 遊ぼ!」
「あっ、りょうちゃん! うん、遊ぼ!」

 可愛らしい笑顔を浮かべる少女と少年は、手を繋いで歩き出した。その光景は微笑ましく、周りも笑顔を浮かべている。

「今日は何して遊ぼっか?」
「うーん、そうだなあ。――っあ! ゆーくん!」
「え?」
「おう、りゅー」

 りゅーと呼ばれる少年はぱっと手を放すと、先程よりも顔を明るくして走り寄った。ゆーと呼ばれる一番背の高い少年は抱きついてきたりゅーを抱きとめる。その顔は酷く優しかった。

「今日も元気だな、りゅーは」
「うん、僕ね、ゆーくんに会いたかったの!」
「可愛いな、りゅーは。……で、そっちのは?」
「あっ、この子はね、りょうちゃんだよ!」
「ふーん?」
「…りょうです」

 りょうという少女は愛らしい顔を少し歪めた。後ろからりゅーに抱きつくと、顔を背中からひょこりと出してあっかんべえをする。ゆーは苦笑した。

「ねえ、ゆーくんも一緒に遊ぼうよ!」

 ぐいぐいと手を引っ張るりゅーに笑を浮かべながら頷くゆーに対し、少女の顔は更に膨れる。

「や、やだ!」
「え?」
「――は、――!」

 りゅーはりょうの言葉に目を見開く。そしてその顔は歪められた。



「――ん」

 目を開けると、見慣れない風景が目に入った。ハッとして体を起こそうとしてベッドから落ちる。

「い、ってぇ…」

 打った頭を押さえて今の状況を確認する。外は真っ暗になっていた。どうやら、寝ていたらしい。
 俺は今の夢を思い出す。あれは、きっと俺だった。しかし、俺は人見知りだったはずだ。あんなに人に懐いていた覚えはない。それに、りょうという少女とゆーという少年……そんな奴、いただろうか。所詮夢の話だ。かなり捏造されて見たということも有り得る。この夢は気にしないでおこう。
 俺は一つ欠伸をし、立ち上がった。