隣の部屋は、吉貴の部屋よりも広くて豪華だった。殺風景な部屋とは反対に、色々な物で溢れている。配置も俺好みだから、充たちがやってくれたのだろう。愛用していたソファは少しこの部屋の広さを狭くしているが、これは気に入ってたので嬉しい。ベッドは流石に天蓋付きは無理だったみたいだから、新品の柔らかそうなベッドだ。
 俺はソファに勢いよく寝転ぶと、ぼんやりと天井を見つめた。久しぶりに外へ出たからか、体が重たい。
 うとうととしていたら、外が暗くなっていることに気づいた。ここに来てから結構な時間が経つ。
 吉貴の奴は今何をしているだろうか。あんな奴、どうだっていいのに、少し気になった。あの顔を見てしまったかもしれない。縫いぐるみが吉貴の大切な物なんだったら、俺は悪いことを言ってしまったなと今更ながらに後悔した。直接謝る気はない。自分でも分かってる、誤ったり礼を言ったりなんてことをするのが苦手だと。それに、充たちなら兎も角、相手は今日会ったばかりの男だ。絶対無理に決まっている。
 溜息を吐くと、鞄の隙間からピカピカ光っている物が見えた。手を伸ばして掴むと、定期的に光を発するのは携帯だった。俺は携帯を開く。不在着信が一件だった。相手は充。俺は少し迷ってから発信した。暫しのコール音の後、落ち着いた声が耳に入った。

『はい』
「電話、どうした? 何かあったのか?」
『あぁ、いえ。流馬様は大丈夫だろうかと思いまして。何か問題はありませんか?』
「…ま、まあな」

 ……ちょ、ちょっと茶の淹れ方を間違えたり吉貴を怒らせたりしたことだけだ、うん。何も問題ではない。

『…本当ですか?』
「うっ…な、何だよそれ。俺が問題起こすって言いたいのか!」
『ええ』
「即答!?」

 キイイ、腹立つ! しかも馬鹿にしたような声のトーンだった!
 手を握って怒りを抑えていたら、今度は真面目な声が聞こえた。

『何かあったら、私に伝えてください。いいですか?』
「お、おぅ…」
『それから、明日はそちらに行きますので』
「マジで!」

 俺は安堵の息を吐いた。二人きりという状況より、充がいる方がマシだ。俺が急に声を張ったからか、向こう側で笑いの漏れる音がした。少し恥ずかしくなり、俯く。黙っていると、充は、まるで俺の様子を見透かしているかのような柔らかい声を出した。

『それでは、おやすみなさい』
「…おー、おやすみ」

 まだ寝るには早い時間だけどな。時計をチラリと見ると一九時半を指していた。そういえば腹が減ったな。……ん? あ、あれ? 夕飯どうすればいいんだ?
 俺は真っ青になってぐるぐると音を立てる腹を押さえた。