くれぐれも問題を起こさないように。確実に俺を見ながら言った充は俺を置いて本当に帰りやがった。あいつ今度会ったら覚えとけよ。
 苛々を抑えながらソファに体を沈める。ダイニングテーブルの椅子に座っている吉貴は黙々と本を読んでいるので、当然会話はない。……まあ、会話なんてしたくねえからいいんだけど。それよりも喉が渇いた。充、と呼ぼうとして思い止まる。ここに充はいないんだった。…くっそ、面倒だな。

「おい、茶」

 仕方なく、本当に仕方なく声をかけると、吉貴は本から視線を外して俺を見る。――が、即効で逸らされた上に完全なるシカト。

「テメェ無視すんじゃねえ」
「煩いんだけど」
「はあ? 俺がいつ煩くした」

 俺はただ無視すんじゃねえと言っただけだ。別に煩くした覚えはない。ギッと睨むが、もう既に俺に興味はないようで、何も返事がない。…こいつ、マジ腹立つ。親父も俺の人嫌いを治すならもうちょっと人選しろよ。これじゃ悪化するだろ完全に。

「…茶ぁ持って来いっつーの」
「自分で持ってくればいいだろ」
「ふざけんな。何で俺が。テメェみたいな貧乏人、使ってもらえるだけ感謝しろよ」

 ブス腐れてそう呟くと、吉貴が本から視線を上げた。やっと動いたかと思ったが、吉貴の表情を見て固まる。酷く冷たく軽蔑した表情でこっちを見ている。

「な、…んだよその顔は。何か文句あんのか」

 情けなくも、声が少し震えてしまった。それでもしっかり睨み返すと、吉貴は舌打ちをする。

「……だから金持ちは嫌いなんだよ」
「あぁ?」
「お前、人嫌いなんだってな。…だったら関わるんじゃねえ」
「関わんなって…、じゃあ何で断らなかったんだよ。だったらこんなことになってなかったのに!」
「俺だって断りたかったさ…」

 憎々しげに言われ、俺は何も言えなかった。…この様子からするに、本当に嫌そうだったからだ。他人は嫌いだが、少しだけ。ほんのミクロンくらいはこいつに良い印象を持った。
 もう話は終わりだとばかりに本に視線を戻され、俺はガシガシと頭を掻き混ぜた。
 …仕方ねえ、取り敢えず今回は自分で淹れに行こう。茶とか初めて淹れるけど、どうすんだろうな…。充に訊くか? いや馬鹿にされそう、っていうかされるから却下。吉貴も動いてくれないし……まあ、どうせそんな難しいことでもないよな。