…つーか、何でこいつは黙ったままなんだよ。そもそもこいつが倒れていなければ、こんなことにはならなかった。いや、なるかもしれないが、それはまだ先のことになっていたはずだ。恨まずにはいられない。もう一度奴を見ると、ボンヤリと窓の外を見ていた。完全に話に参加してないぞこいつ。

「あ、この子はね、吉貴由眞くんだよ」
「吉貴由眞…」
「名前似てるだろう? 運命だねこれは」
「気持ち悪いこと言うなクソ親父」
「クソ親父って…」

 しょんぼりとした顔で俺を見る親父をスルーして、どうやって説得しようか考えていると、遂に奴が口を開いた。

「…もう帰っていいっすか」

 立ち上がって、酷く面倒そうな顔で告げる。おー帰れ帰れ! その顔とか態度とか超腹立つけど今すぐ帰れ! 

「え?」
「そこの人も賛成してないみたいだし。俺やらないといけないことあるんで」
「申し訳ないけどちょっと待ってくれないかい? 流馬、どんなに言ってもこれはもう決定事項だからね」

 先程までの緩い雰囲気がビシッとしたものに変わり、顔が強ばる。こうなったら親父は何を言っても聞かない。……諦めるしかないっていうのかよ…。

「だからって…」
「流馬の荷物は運んであるし、新しい家も用意したから。そこで由眞くんと住んでもらうからね」

 さあもう出て行けと言わんばかりの顔をされ、俺は舌打ちをして部屋を出る。後ろから吉貴という奴の退室を促す声も聞こえた。足音が聞こえるので、俺の後を付いて来ているんだろう。チラリと充を見ると、苦笑された。

「あ、充くん。案内してやって」
「畏まりました」

 俺への態度とは全く違う、本来の執事らしく礼をした充は、こちらですと言って歩き始めた。俺は渋々その後ろを歩いていく。隣――正確には数メートル離れた場所に吉貴が並び、不機嫌さを露にしたまま前を見ている。……俺が言えたことじゃねえけど、もう少し愛想とかねえのかよ。仮にも他人ん家で、しかも京嶋だぞ。よく金持ち相手にそんな態度ができるな。…ホームレスなら、媚びるところだろうに。
 まあどうでもいいかと俺は視線を外し、黙ったまま充に付いていった。



 車で走ってから十分。二階建ての小さなレンガ仕立ての家が今日から俺と吉貴が住むところらしい。……マジ小さいんですけど、ここ。俺の家の何分の一だ?

「では流馬様、何かありましたら連絡してください」
「えっ…。お前、帰んの?」
「はい」

 えー!
 顔が青ざめるのが自分でも分かった。…ま、マジで二人きりかよ…!