渋々頷いた俺はその「ゴミ捨て場に倒れていた」奴がいる応接室に向かっている。俺がブス腐れた表情だからか、充は苦笑している。
 …行きたくねえなぁ。沈んでいく気持ちと共に顔もどんどん下へ向く。病は気からっていうけど…何だか腹が痛くなってきた気がする。本当に気持ちに左右されるよなこういうのって。
 
「流馬様」

 声をかけられ、顔を上げると少し離れた位置に充が立っていた。どうやらいつの間にか足が止まっていたらしい。俺はむすっとしたまま近づく。

「そんなに嫌ですか」
「当たり前だろうが。お前も知ってんだろ」
「…そうですね」

 何故だか少し嬉しそうな顔をされ、俺は目を丸くする。…何か喜ばせること言ったっけ? いや…言ってないよな特に。

「…つか、何で俺が出て行かなきゃなんねえわけ」

 普通ならそいつがここに住むことになんじゃねえの。そう思って疑問を口にすると、ぎくりとした表情で俺を見た。言いづらそうに視線を泳がせると、静かに呟いた。

「…この家なんかに住みたくない、と…」
「は…」

 一瞬何を言われたのか分からなかった。そして言われたことを理解し、頭にカッと血が上る。

「な、何だよそれ…! ふざけんな! じゃあ一緒に暮らさないでいいだろ…! 意味分かんねえ!」
「…幸成様が決めたことですので」
「…っくそ」

 顔を歪めて俺は大きく舌打ちをした。



 応接室に着き、充がノックすると、入室を促す声が聞こえた。

「失礼します」

 充に続き、俺も仕方なく部屋に入ると、親父と例の奴が向かい合って座っていた。男を見ると、割と(ここ重要)イケメンだということと、思ったより風貌がちゃんとしているということに気づいた。ホームレスの実物はこんなもんなのか…。
 俺が男をじろじろと観察していることに気づいたのか、視線がこちらに向いた。ギロリと睨むと、なんと睨み返された。

「やあ、遅かったね」
「俺は嫌だからな」
「まだ何も言ってないじゃないか」
「ふざけんな、何を言うか分かってんだよ!」
「我儘は止めてくれよ、流馬。お父さんはね、流馬が友達とわいわいやってる姿が一度でもいいから見たいんだよ」

 悲しそうな顔で言われ、ぐっと押し黙る。…そりゃそうかもしんねえ、けど、さ。無理なもんは無理だ。