「これから流馬様には家を出てもらいます。以上」
「ふーん、俺が家を出……え? な、何だって?」

 そこで漸く俺の首に乗っていた足を退かせた充は屈んで俺の目線に合わせると、溜息を吐いた。

「はぁ…実はですね、幸成様が人を拾いまして」
「親父が人を拾った…?」

 な、何だそれ。どういう状況でそうなったんだ? ……拾ったから俺は出てけってこと? あの鬱陶しいほど絡んでくる親父がそんなことをするとは思えないが、全く意味が分からない。俺に低俗な奴らと生活しろっていうのか?
 ――生まれてこの方一八年ちょっと。俺の家に雇われているメイドや執事、そして家族以外と接したのは片手で数えれるくらだ。それも幼少期。生まれながらにして極度の人見知りだった俺は、唯一信頼していた同い年のダチに落とし穴に落とされたことが原因で人間そのものが嫌いになった。大袈裟かもしれないがな、その穴は元からあったもので、かなりの深さがあったんだ。打ち所が悪かったら死んでたかもしれない。全身打撲な上、高熱が出てしまった。あれほどトラウマなものはない。それから外で遊ばせるのは危ないと思った親父達も家から出してくれなかったことで、人嫌いは継続中だ。
 流石に年数が経つ内に逆に外出してみろとか交際してみろとか煩くなったけどな。俺は他人とは馴れ合うつもりはない。内部の人間だけで充分だ。
 …と、考えてると、頬をぐい、と引っ張られた。

「い、いひぇーな! 何ひゅんだ!」
「話聞けよコラ」

 凄まれて、俺は少し涙目になりながらこくこくと頷いた。手を放されても痛みが残り、両手で頬を押さえていると、呆れた表情で再び溜息を吐かれてしまった。

「今朝、幸成様が帰って来られる時に、ゴミ捨て場に人が倒れてたので拾ったそうです」
「はあ!? ゴミ捨て場だぁ!? 何でんな汚ねぇとこにいる奴なんぞ拾ってんだよ!」

 あれか、ホームレスという汚い服にボサボサの髪に卑しくゴミ箱を漁る奴か! 実際見たことはねえけど、そういうもんなんだろ? 何かの小説で読んだぞ。
 嫌なイメージしかない奴を思い浮かべ顔を顰めると、わしゃわしゃと俺のサラサラな自慢の髪を掻き混ぜる充。仕方ねえな、みたいな苦笑を浮かべている。

「んな顔するなって。お前と近い歳の奴だし、さっき見たけど中々のイケメンだったぞ」
「……だからって、何で俺がそいつの代わりに出て行かなきゃ…」
「あ、それだけど、お前にはそいつと一緒に暮らしてもらうから」
「は?」

 え、一緒に暮らす? 

「無理無理無理無理無理! ぜってー無理!」
「もう決まったことだ。俺は一応止めたんだが…悪かったな」

 いつもは上から目線なのに、時々凄く優しい目で見つめられるから、俺はこういう充が苦手だ。調子が狂うっていうか…。

「…充の所為じゃねえだろ」

 断れないんだ、この顔をされると。



現在:4月の上旬

京嶋 流馬(きょうじま りゅうま)

18歳になったばかりのザ・引き籠もり。
過去の嫌な思い出から人嫌い発動中。

茶髪にピアスという今時の若者っぽく、イケメン。センスも悪くない。

叶世 充(かなせ みつる)

25歳の執事。黒髪短髪でワイルドな男前。
流馬の父親に恩義があり、高校生の時から住み込みで働いている。