まあ美形って言ったら美形だけどな、人間やっぱり重視するのは中身だろう。その次に顔かな。あんまり汚らわしい姿をしている奴はちょっと。……って、んなことはどうでもいい。

「おい、稲森」

 もう一度呼びかけてさっきより強めに肩を揺らすと、少し身動ぎして薄く目を開けた。

「ん……」

 目を擦りながら体を起こしたのて、俺は手を放してじっと稲森を見つめる。ぼおっとしていた稲森はキョロキョロと辺りを見渡し、俺に気づくと目をカッと見開いた。

「な、…なんでアンタがいるわけ!?」
「お前こそ、まさかここにいるとは俺は思わなかったぞ」
「うっさい。俺がどこにいようと別に関係ないだろ」
「関係あるだろうが。馬鹿か」
「……は?」

 溜息を吐くと、さっきまで眉を顰めて睨んでいた稲森がぽかんとした表情になって俺を見る。……え、今そんな顔する言葉言ったか、俺? 自分が言った言葉を思い出したが、特に思い当たらなくて首を傾げた。

「関係あるって…」
「ああ、お前戻って来るなり訳分からないこと言って飛び出しただろ。俺が何かしたならちゃんと口に出せよ。あと仕事しろ」

 俺の言葉にぎくりとした表情になると、俯いてしまった。更には体操座りになる。そうして、小さくこう告げた。

「俺は…アンタが嫌いだ」
「あー、おう、知ってる」

 あからさまだもんな、お前。ふっと苦笑すると、稲森が勢い良く顔を上げた。

「い、今笑った!?」
「はぁ?」

 いきなりどうしたんだ、お前。いや、笑ったっちゃ笑ったけど。

「…っんで……!」
「おい、どうしたんだよ。さっき言ったように、ちゃんと口にしろって」
「アンタこそ顔に出せよ色々!」
「お、おう? 良くわからねえけど分かった」
「分かってねえじゃん! いや、つか、え!? 顔に出すの!?」
「寧ろ俺顔に出てねぇの?」
「出てねーだろ!」 

 はあはあと肩で息をして俺を睨むが、俺は言われた意味が分からないし、どうしてそんなにそこに拘るのかも分からない。でも、こんなに感情をぶつけてくるのは初めてで、何だか少し嬉しい。……俺、青春ものって好きなんだ。
 っていうか、俺顔に出てねえのか。んなことないと思うんだけどな。…一応十夜に訊いてみよう。

「で、言いたいことはそれだけか?」
「…俺は、会長の座に就きたかったんだよ。それをアンタが横取りするから…だからアンタが嫌い」
「成程なぁ…。ん? 横取り? おい待て俺は別に横取りしたわけじゃねえよ」
「うっせー!」

 そう言うと俺の体を押して立ち上がると、そのまま歩いていく。俺はそれを見つめていると、稲森は足を止め、振り返った。

「おい、仕事すんだろ!」

 俺はぶすっとしている稲森に笑みを漏らすと、後を追った。