俺は溜息を吐いて稲森が出て行った生徒会室の扉を見た。…あいつ、いきなり怒り出したと思ったら、またサボる気かよ。あいつが会計になりなかったわけじゃないとしても、任された仕事はきちんとやるのは社会のルールだ。それを守れない奴に、しかもあからさまに敵意を向ける奴に優しくしろという方が難しい。俺は神様でも聖人でもない

 いつかちゃんと話し合いをようと思っていたが、あいつがサボったり無視したりで中々実行できないでいる。今も話を出来る状況とは言えないが…しかし、ここで放って置いたら、更に溝が深まる気がする。俺は立ち上がって携帯だけを制服のポケットにつ込んで扉の方へと歩を進める。

「七城、悪い。稲森の奴を連れ戻してくるな」
「あ…はい。あの、すみません…」
「何で謝るんだよ、七城は悪くないだろ」

 ふっと笑えば、ションボリした犬のような顔で俺を見上げると、小さく呟いた。

「俺は稲森と同じクラスなのに、ここに連れて来ることも説得も出来なくて…」
「七城は高校からの入学だったよな。まだ知り合って少ししか経ってないんだし仕方ない」
「…有り難うございます」
「じゃあ行ってくるな」
「はい」

 七城の笑顔に笑い返すと、俺は生徒会室を出た。



「あ、やべ。十夜に言ってねぇわ」

 俺が勝手なことをしたと知られたらグチグチ言われるに違いない。俺は舌打ちをして携帯を取り出し、素早くメールを打ち込んで送信した。すると、すぐに携帯が震える。メールではなく電話だった。

「あい」
『あい、じゃねえよ! お前、稲森と話すって…、ダメだ! 危ない!』

 仮にも後輩だぞ。その言い方はどうなんだよお前。電話口から聞こえる怒鳴り声を携帯を耳から離して聞いていたが、違和感を覚えて顔を顰める。

「おい、今どこにるんだ。誰かに聞かれたらどうするんだよ」
『…あー、大丈夫だ、それは。今部屋にいるからな』
「は? 何で。仕事しろよ」
『色々あるんだよ……はあ、兎に角、稲森は不良と連るんでるから、危ない。何かあったらどうするんだ』
「俺がやられるかって。それにそこまで稲森は落魄れちゃいないいから大丈夫だ」

 暫し待つと分かったという声が聞こえた。渋々という感じだったが。俺は注意を長々と言ってくるのに飽き、適当に返事をして通話を切る。