甘い物が好きではない十夜はぐっと押し黙った。

「あー、マジ明後日が楽しみだ」

 そう言って伸びをして欠伸をすると、はっと何かに気付いた顔をした十夜が俺に詰め寄る。

「そうだ、お前、活動日って月曜、水曜、金曜だったよな!? それあからさまに生徒会のない日を指定してるけど大丈夫なのか!?」
「だって仕方ないだろ、それは。サボるのも自分の正体晒すのに等しいからな。ま、もし突っ込まれたら生徒会の奴でも活動できるように、みたいなそれっぽい理由でも言っとけばいいだろ。……ふぁ、ねっむ」
「はあ…お前は相変わらず楽観的だな…。どうなっても知らないぞ」
「そんときゃお前が助けてくれんだろ?」

 ニヤリと口角を上げると、十夜は嫌そうに顔を歪めると、大きく溜息を吐いた。

「マジうざいよお前…」
「そりゃどーも」
「馬鹿」

 コツンと頭を軽く殴られ、俺は笑いを堪えられずに噴き出した。



「……おい七城、稲森はどこ行った」
「さあ…俺が来た時にはいませんでしたけど」
「あいつ、俺が書類受け取りに行った途端にこれかよ。…まあいい。どうだ、仕事は慣れてきたか?」
「あ、お蔭様で。会長の教え方凄く分かりやすかったし」
「お、そうか? でもお前の飲み込みが早かったってもあるぜ」

 書記の七城は俺の言葉に嬉しそうにはにかんだ。爽やかな見た目のお陰か、稲森の所為で溜息を吐きたくなっていたのが拭われた。稲森もこんな風に接してくるならなあ…。俺は、ふ、と笑って頭を撫でる。サラサラのこの短髪は、運動した時に綺麗に靡くんだろうな。そんなことを思いながら七城を見ると、照れているのか顔を赤くして俯いていた。…愛い奴め。俺は嬉しくなってぐりぐりともっと撫でた。

「か、かいちょ、……です」
「ん?」

 口をもごもごさせて何を言ったのか聞き取ることが出来なかった。俺は頭に手を乗せたまま耳を近づける。息を飲む音が聞こえた。

「……な、に…してんの。アンタら」

 呆然としたような声が聞こえ、俺たちはハッと声のした方を向く。いつ入ってきたのか、稲森が口をぽかんと開けたまま俺たちを見ていた。

「…はー、やっと戻ってきたか。早く仕事しろよ、溜まってんだから」
「……は、なしそらしてんじゃねぇよ。何やってたんだよ、二人でそんなに顔近づけて」

 訳が分からないと俺を睨む稲森の視線を無視しながら自分のデスクへと戻る。別に疚しいことなんてしてないんだからここで怯むわけにはいかない。
 何が気に食わないのか、稲森は苛立ちの含んだ声で俺の背中を怒鳴る。

「なんで、なんでアンタが――っ、!」

 声が途切れ、俺は顔だけ振り返る。呆然と自分の口を押さえた稲森は、ぐしゃりと顔を歪めてバタバタと生徒会室から出て行った。



七城 聡(ななしろ さとる)

1年。爽やかな男前。
駿のことを慕っていて、駿に酷い態度を取っている稲森を内心良く思っていない。