大袈裟に溜息を吐いて苦手な菓子だよ、と教えてやると、ふーんという適当な声が返ってきた。

「…別にない」

 もうちょっと社交性をだな…。まあいいか。何でも食べれる、ね。俺が言うのも何だけど意外だ。こういうクールな奴って糖度高めのものは無理なイメージがある。

「オーケイ。俺も何でもいける口だ。そうそう、ニャッキだったな。俺はチョコチップクッキーが好きだ」
「おー、ええなぁ!」

 ニコニコしているのが面の下からでも分かるほど声が弾んでいて、俺は苦笑した。こういう奴は嫌いじゃない。…が、俺の横にいる十夜は苦手な部類だろう。どことなく苛々が伝わってくる。これは絶対後で色々言われるな。……ニャッキの代わりに俺がな。

「あ、オメガ。――あれ」
「はいはい」

 十夜は溜息混じりに言うと、ガサガサと紙袋から数冊のノートを取り出す。そしてそれを一人ひとりに配っていくのを見届けて、俺は口を開いた。

「一応それ、部誌みたいなモンっつーか、感想ノート的な奴だ。何か要望とかあったら出来る範囲で応えるから書いてな」
「書くのは感想だけっすか?」
「いや、何でもいいぞ。あー、でもあんまりふざけたものは書くなよ」

 「他に何か質問は?」問うと、部室が静かになった。見渡してみても皆は首を振るばかり。……何も反応してない奴も若干いるけど、何も言わないってことはないんだろう。

「じゃ、今日はこれで解散。遅刻はいいけど、無断欠席すんなよ。それじゃ明後日の放課後にここ集合な」

 解散の合図に手を数回叩くと、俺は立ち上がる。それに続いて皆も立ち上がった。



「っあー、疲れた」
「お疲れ」
「おう、サンキュ」

 部屋に入ると、俺は勢い良く無駄に大きなソファに飛び込んで横になった。そして十夜に冷えた清涼飲料水を渡され、ニッと笑いそれを受け取る。

「…でも、意外に少なかったな。俺はお前の正体を探りに来る奴がもっといると思ったけど」
「あ? いや、結構メールは届いてたぜ。悪戯メールと正体を教えろっていうメールがな。その中でマジで甘い物が好きそうな奴を選んだだけ」
「ふーん…。でも、甘い物が好きだか怪しい奴がいたけど、それはいいのか?」
「まあいいんじゃね? 俺は堂々…ってわけでもねぇけど、学校で食べりゃそれでいいし。それにお前がいる時点で許容したことになる」