無言で押し付けると、再び下品な笑いを漏らしながらそれを受け取ったそいつは、そういえばと一枚の紙を取り出した。それを見て俺は一瞬息を詰める。

「テメェの母親…またやらかしたみてぇだな」

 きっとこいつの親から送られてきたであろう手紙を見せびらかすように掲げ、ニヤリと笑う。俺のクズ親父が借金だけを残し俺たちを捨てた時、こいつの家が肩代わりをしてくれた。それは決して善意ではない。恩に着せて俺たちから色々な物を剥ぎ取る為にやったことだ。悔しいことに、こんなクズな奴でも、家の権力は俺の家よりも上だ。
 俺の母親は昔から厳しかったが、ちゃんと温かみのある人だった。しかしあのクズ親父が消えてから、笑わないし冷たい目で俺を見るし、時には暴力だって振るわれた。俺が会長に選ばれなかった時のことが忘れられない。――「役立たず」だなんて、初めて言われたことだ。
 こいつにやっている金は、俺がバイトで稼いだ金だ。会長になれないなら、会計という微妙な立場なんて要らない。つまり止めさせられても別に痛くないから、仕事をサボって態々街へ下りて働いている。

「……まだ金が足りないの?」

 暗にこのことをバラしてもいいのかという脅しをしてくる男に溜息を吐きたくなる。まだ金が足りないとは、何て欲張りな男だ。
 しかし、男は首を振った。そして手紙をポケットに仕舞い、今度は違う紙を取り出した。

「いや、お前さァ…。こいつの弱みっつーか、情報盗んで来いよ」
「はあ?」

 こいつって誰だよ。思いながら差し出された紙を見てハッとする。俺が先程見ていた紙――甘党部のものだった。あの狐面のことか? 何であいつの情報を?
 いや、理由は想像できる。狐面はバレたら駄目だと言っていた。どうせ弱みを握って俺みたいに金を巻き上げたり面倒事を押し付けたりするつもりだろう。あの狐面に恨みなんてないし、俺はどっちかと言うと好意を抱いたから――それが何故かは分からないけど――正直やりたくない仕事だ。でも、俺はこいつに逆らうことはできない。

「……分かったよ。その甘党部ってやつに入部して色々聞き出せばいいんでしょ」
「その通り。ひひ、頼むぜ?」

 あくどい顔をして去って行った男を睨みつけ、俺は甘党部の紙と携帯を取り出す。そして迷惑メール用のメールアドレスを使って素早く用件を打ち込むと、送信した。送信しましたというメッセージを見つめ、溜息を吐いた。
 あーあ、気分最っ悪。