アイドルにファンクラブがあるのと同じように、人気者には親衛隊というものが作られる。付き合い方は人それぞれだ。例えばただの性欲処理、友達感覚、それから俺たち生徒会や風紀は仕事に追われて授業に出れなかった時(因みに生徒会と風紀は仕事がある場合に限り、公欠だ)などにノートを頼むこともある。
 しかし親衛隊というものは決して良い面だけではない。友好を築いている奴なら問題はないが、放任している奴らの親衛隊は、その崇拝している奴に顔が特に整っていないような生徒や気に食わない生徒が近づいた時、裏の顔を見せる。制裁を下すのだ。警告で済めばラッキー、酷い場合は虐め、リンチ、そして強姦。今の風紀は昔よりも実力があるらしいので、未だ大きな問題は起きていない。まあ、生徒会と風紀は仲が悪いから直接褒めるようなことはないが。
 静かな生徒会室の中、ふあ、と欠伸をする声が小さく漏れたかと思うと金髪のふわふわパーマにチャラチャラとした様々なアクセサリー、少し焼けた肌――見た目は完全にチャラ男な会計の稲森が立ち上がった。

「おい、どこ行くんだ」

 透かさず声を掛けると、稲森は面倒そうな顔で俺を見た。どうもこいつは生徒会の中でも俺を一番良く思ってないようで、しばしばこういう顔を向けられる。

「どこだっていいでしょぉ〜」

 既に仕事モードを脱ぎ捨て飴を頬張っている稲森を、思わず羨ましそうに見そうになってしまい、眉を寄せて視線を逸らした。
 稲森は甘い物が好きで、良く甘い物を食べているのを見かける。俺は稲森が好きではないが、それを純粋に羨ましいと思う。俺はこの不良のような目つきや風貌、身長から甘い物が嫌いというイメージを付けられている。だから、そんなイメージを壊してしまうのは申し訳なくなり、人前で甘い物を目にするのも口にするのも止めた。甘い物を見たら食べたくなってしまう。禁断症状が出てつい無意識に口にでもしていたら、生徒会を陥れようとしている奴らや風紀に弱みに付け入られてしまうからな。

「馬鹿か。まだ仕事が終わってねえだろうが」
「うっさいなぁ…。俺は好きで生徒会やってんじゃねーし」
「稲森」
「……なにさ、副会長」
「仕事をする気がないなら出て行って貰えますか。あと会長も口より手を動かしてください」
「へいへいっと」

 適当にあしらうと、キッと睨まれた。
 冷たい視線を向けられ、稲森はぐっと息を詰める。副会長である佐武は氷の王子様なんて恥ずかしい名前で呼ばれている、見た目だけは外国の王子のような奴だ。俺はただの口煩い小姑のような奴にしか見えないけどな。

「っ、言われなくても出て行くし!」

 そう言うと、生徒会室の豪華な扉を乱暴に開け、出て行った。その後姿を見送ると、俺たちは溜息を吐いた。この生徒会室には今俺とこいつの二人だけだ。

「あいつ、いい加減マジで仕事してくんねえかな…」
「俺たちが言っても無駄だろうな。嫌ってる奴から言われても従いたくないだろ」
「そりゃそうだ」
「ところで」

 急に口調を変えて無表情を崩した佐武もとい十夜は顔を顰めて俺を見る。後ろのオーラが黒いのはきっと気のせいではない。

「お前、あんな顔して甘い物を見んなっつんだろうが! いつかバレるんじゃないかと冷や冷やする」
「げ、マジ? 俺は何とか誤魔化せたと思ったんだけどな」

 顔を引き攣らせると、再び十夜は溜息を吐いた。
 佐竹十夜とは所謂幼馴染という関係だ。しかしこの学園では十夜は性格を偽り、俺たちは仲が悪いという設定だ。何故かっていうと……まあ、その理由は追々。

「稲森が見てなかったから良いものの…気をつけろよ」
「分かってるって」
「お前はそればっかり……」

 疲れたような顔で呟くように言葉を発した十夜を見ながら、甘い物食べてえな、と思った。



相沢 駿(あいざわ しゅん)

高校二年。俺様?生徒会長。編入してきて早々に会長に任命された。
甘党。

佐武 十夜(さたけ とおや)

高校二年。駿と違い、一年の時から宮野村。
氷の王子様(笑)な副会長。
駿の行動に一々心配している。

稲森 幸樹(いなもり こうき)

高校一年。生意気なチャラ男会計。
駿が嫌い。

小学の時から宮野村。