「もお、邪魔しないでよね、日向野くん。ヘタレの癖に」
「はあ!? 誰がヘタレだ!」
「そろそろ自覚しないとやばいんじゃないのー?」

 意味深な笑みを浮かべる大川。ぴくりと日向野が反応した。見上げると、動揺したように視線を彷徨わせている。何か心当たりでもあるのだろう。
 しかし、一体何の話だ? 俺には日向野がヘタレには見えないんだけど。やっぱり、大川と日向野は親しい間柄なのか…?
 日向野の腕の中で溜息を吐いてそういえば哲史は、と周りを見渡すと、真っ赤な顔で固まっている哲史が目に入った。
 ……っは! さっきのキスも見られたんだった! く、くそ、友達の前で何て情けない姿を…! ていうか助けてくれ、哲史! 俺にはこの空気は耐えられない!
 俺の縋るような視線に気付いたのかこっちを向く。目が合うと、ボッと更に顔を赤くした。
 え、何でだ…。
 助けてくれと口パクて伝えると、今度は少し顔を青くしてぶんぶんと顔を横に振る。まあ、そうだよな…。自分で何とかしないといけないようだ。

「スイくんに会った? もう知ってるんでしょ、あいつが来た理由」
「てめぇこそ何で知ってんだよ」
「それは企業秘密。ってか取りえず翼くん放してあげなよ」
「んなの俺のかっ――……ぃ゛っ!?」

 肘を奴の鳩尾に埋める。いきなりの衝撃に引き攣った悲鳴を上げる日向野。力が緩んだ隙に日向野の腕の中から脱出すると、哲史の横に並んだ。げほげほと咳の音がするけど気にしないぜ!

「だ、大丈夫だったか…? 俺、何もできなくてごめんな」

 申し訳なさそうな顔で言われた言葉に気にするなという意味を込めて首を振った。すると安心したように弛んだ顔、――の後に何故かまた顔を赤くする。視線は勘違いでなければ俺の口に向けられている。い、いや、気のせいだよな、うん……。

「げほっ、て、めぇ……!」
「ぶはははっ、だっさ!」
「うっせえ!」

 げ、と顔を顰める。日向野は腹を押さえてこっちを睨んでいる。声には怒りが含まれていた。
 そしてそれをげらげら笑う大川。俺に向いていた視線が大川に向けられた。
 横をちらりと見ると、哲史は青い顔で俺を見る。……ってかさっきから赤くなったり青くなったり忙しいな、オイ。
 俺はすっかり冷めた飯を遠い目で眺めた。