――で、なんでこうなったんだ…?
 俺は前から眼光鋭く睨んでくる日向野に密かに冷や汗を流した。美味しい筈の食事もなんだか味をあまり感じない。いや、それ以上に横に座っている哲史が意識を飛ばしそうなほど顔面蒼白だ。大丈夫だろうか。でも俺が哲史に話しかけると睨んでくるんだよな。
 どうしてか一緒に食事しているが、そんな顔するなら他に行けよ。睨まれ慣れてる俺だけど、流石に食事くらいは落ち着かせてください。切実に思いながら味噌汁を啜る。ズルズルと麺を啜っている日向野は、相変わらず俺を睨んでいる。
 っていうか、朝からラーメンって…。しかも啜りながら俺を睨むってどうなんだ。ちゃんと味わって食えよ。食堂の小母ちゃんに謝ってくれ。俺もごめんな、小母ちゃん。

「……日向野」
「…あ?」

 我慢できなくて日向野に声をかけると、麺を飲み込んでから返事を返してきた。…あ、意外にちゃんと飲み込んでから声を出すのか。そういうの好きだぞ俺は。くちゃくちゃするの好きじゃないからな。

「何でここで食べてるんだ」
「……は、ここで食べちゃいけないっつー決まりでもあんのかよ」
「じゃあ睨むな」
「睨んでねぇ」

 いや凄い睨んでるんですけど。自覚なし? それ人に誤解される原因になるぞ。俺みたいにな! ……うん、悲しくなってきた。

「あーっ!」

 突然の声に、俺と哲史はびくりと震える。後ろを振り向こうとすると、暖かい何かが俺を包む。柑橘系の匂いが漂ってきた。誰かの胸板を直面して、俺は硬直する。

「翼くん、おはよー! あ、日向野くんも」
「俺は序でかよ。つかてめぇは何してんだ!」
「えー、翼くんに挨拶に決まってんじゃん」

 ……え、誰? 何か凄く馴れ馴れしいんですけどこの人。ていうか何故俺を抱き締めてるんだ? 見上げると、チャラそうな美形の男がヘラヘラと笑っていた。…本当に誰なんだ。日向野は知っているっぽいけど、口を開ける状態ではない。横を見ると、哲史は口を開けて呆然としていた。絵面的にもちょっと危険な感じがする。眉を顰めた男がチャラチャラしている奴に抱き締められている……ある意味視界の暴力だ。
 周りの奴(主に女子)もきゃあきゃあと何だか悲鳴みたいなものを上げている。きっとキモいとか何とか言われてるんだろう。
 溜息を吐いて言い合っている二人を見つめる。