漸く目が覚めたらしい哲史は、俺の真向かいのソファーに座った。

「朝飯、どうする? 俺、食堂行こうと思ってるんだけど」

 この学校の食堂は寮と校舎の方に一つずつある。と言っても、寮の食堂は校舎のよりも小さく、メニューも少ない。校舎の食堂が閉まるまでは、そっちに行く人が多い。しかし、俺は寮の食堂を愛用している。人少ないし。まあ俺が行くからって言うのも少なくなる要因なんだけど。

「俺も食堂行く。寮の方だけどいいか?」
「ああ、いいよそれで。えーと、財布財布…」

 鞄の中をガサガサと漁っているのを横目で見て、テレビのリモコンを手に取る。電源を落とすと、俺は立ち上がった。軽めの鞄を肩に掛けて制服のポケットに手を突っ込む。

「お、あった。よし、じゃあ行くかーって…なに、その鞄。超軽そう」

 少し膨らんでいる哲史の鞄とは対照に俺の鞄は凹んでいる。それを見た哲史は、不思議そうに首を傾げる。
「…入ってるの財布だけだからな」
「なにそれサボる気満々じゃん。そういえば昨日教室にいなかったし、そこらへんはちゃんと不良してんのね」

 はは、と爽やかに笑った哲史に俺も笑い返す。改めて行くか、と玄関に足を進めた。




「なあ、あれ…」
「横の奴、もしかしてパシリか?」
「あいつも可哀想に…」
「げ、目あっちまった。相変わらず怖ー」

 俺が日向野のような不良以外と一緒にいるのが余程珍しいのか、周りの奴らはこっちをチラチラとみながらコソコソ話している。気分のいいものではない。それは哲史も同じようで、眉を顰めて辺りを見回している。

「何だこれ。失礼な奴らだな」
「ごめん、俺の所為だ。あいつらの言うこと気にしなくていいから」
「でも…いや、分かった。取り敢えずさっさと行こう」
「ああ」

 あまり納得の言っていない様子だったが、一つ溜息を吐いて早足で歩き始めた。俺もそれに着いていく。

「あん? 栗原じゃねぇか」

 曲がり角の所で、ばったり日向野と遭遇してしまった。あー、朝からついていない。