「じゃあ、あのさ…翼って呼んでもいいかな? 俺も好きに呼んでいいから」
「お、おう。…さ、さと、…哲史」

 何とか名前を言うと嬉しそうに笑った哲史に俺も笑い返す。そして、リビングで色々話さないかと言う提案に頷いて部屋から出た。

「翼は…中学からここに?」
「ああ、…三年になった時にこっちに来た」
「え、結構中途半端な時期だね」
「あに――」

 兄貴、と言おうとして慌てて口を閉じる。これって…言わない方がいいんだよ…な? でも、折角の友達第一号なんだし、兄貴に紹介したいし、哲史にも自慢の兄貴だと紹介したい。兄貴に訊いてみるか…? 携帯に目を遣って、思いとどまる。春斗さんにも会うなとか言う今の状況じゃあ、関わるなと言われるかもしれない。それは嫌だ。

「翼?」
「あ、いや…。ちょっと事情があってこっちに来たんだ」

 いつかちゃんと紹介できる日が来れば、言いたい。だから今は追求してくれるなよ。俺の重いが伝わったのか、そうか、とだけ言ってそれ以上は何も訊いてこなかった。

「それにしても…翼って格好いいよな」
「……へ?」

 突然の言葉に俺は目を瞬いた。哲史は苦笑して、頬をぽりぽりと掻きながら言う。

「いや、最初は…その見た目にビビったんだけどさ、今改めて見て男前だなあと…」
「あ…悪い、こんな目つきとか格好とか…」
「えっ、や、もう大丈夫だって! っていうか俺こそごめん、過剰反応で…」
「もう慣れたし、そこらへんはいい。…俺に近づいてくんの喧嘩売ってくる不良ばっかりだし」

 あ、何か言ってて虚しい気分になってきた…。

「そういえば、話は変わるんだが…入寮、今日だったんだな」
「あー、それがさ、近所のチビたちがギリギリまでいろって煩くて。遊び疲れたよ。漸く筋肉痛から解放される…」

 哲史は遠い目をしながら、ふふふと不気味に笑う。た、大変だったんだな…。筋肉痛になるまで遊ばないといけないのか。……でも、そういうの憧れるなあ。俺と目が合った奴らは逃げ出すか泣き出すか、だった覚えしかないな。