俺もそっちの学校に行きたいなんてことを言った春斗さんに苦笑を浮かべながら口を開くと、耳に押し当てていた携帯がするりと抜けた。その行方をのまま見ていると、兄貴がエプロンをしたまま不機嫌な顔で携帯を手にしていた。

「話しすぎ」
「…そんなに話してないと思うけど…」
「うるせぇ。おい、春斗」

 有無を言わさず、しっしと手で追い払われて俺はテレビに視線を向ける。面白みのない芸人のコントがあっていて、欠伸をひとつ漏らす。

「…あ? 知るかよそんなの。お前どうにかしろって」

 聞こえてくる声に、そっちを見ると兄貴は面倒そうな顔をしていた。電話口から漏れるのは普段より少し大きい春斗さんの声。…何話してるんだろう。俺に関係ない話だとは思うが、そういえば電話に出たときの春斗さんの声は何かに怒っているように聞こえたんだった。また兄貴が何かやらかしたか? 後で聞いてみようと再びテレビを眺める。チャンネルを変えてみたが、あまり面白そうなものはなさそうだ。
 暫くボーっとしていると、頭に衝撃があった。

「いってぇ!」

 頭を押さえて上を見上げると、ソファーの後ろで俺を見下ろして立っていた。その手には拳が握られていて、これで殴ったのかと恨めしく見つめる。

「飯だぞ」
「あー、はいはい」

 いつの間にか番組が変わっていたテレビを消してソファーを立つ。家は基本的にテレビを見ながら食事ってのは好まない。それよりも話した方が楽しい、と決められたこれはここの寮に入ってからも続いている。テーブルにはナポリタンとサラダが並べてあった。今日はスパゲッティか。特に好き嫌いがあるわけではない俺は、鳴りそうになるお腹を擦りながら席に座る。真向かいに兄貴も座り、お互い手を合わせた。

「いただきます」

 ……因みにこれも、決まり事の一つである。俺が言うのもなんだが、鋭い目をしながら手を合わせる姿は、中々のシュールさである。

「さっき、春斗さんと何話してたんだ?」
「あー…昔作ったチームの今の総長がちょいとな」
「ふーん…?」

 言葉を濁した兄貴に、それ以上は追求せずにくるくるとフォークに巻きつけた麺を口に運ぶ。チームとか、そういうのは俺は全く分からない。