結局、何の用があったのかというと、久しぶりに夕飯を一緒に食べようとのことだった。最近は兄貴の仕事が忙しく、飯はバラバラだったから普通に嬉しい。俺は料理が出来ないから、兄貴が作るのをテレビを眺めながら待っていた。すると、テーブルに置いてある、黒いシンプルな携帯が振動し始めた。俺のではない。兄貴のだ。"春斗"と表示されているのを見て、俺は兄貴に呼びかける。

「兄貴ー。春斗さんから電話ー」
「あ? ……ッチ、お前出ろ」

 顔を上げ、渋々といった感じで答えた兄貴に苦笑しながら、携帯を手に取る。開いて、通話ボタンを押すと、久しぶりに聞く声が耳に伝わった。

『お前この前…!』
「どうも、春斗さん。お久しぶりです」
『……え、翼? おー! 久しぶり!』

 何かを言いかけた春斗さんを遮ってしまって、聞き返そうとしたら、少し間を空けて戸惑った声が発せられた。その後、いつもの爽やかな声で笑顔になっているのが電話越しでも伝わった。
 ……何か、怒ってたように聞こえたけど、気のせいだろうか?

『元気か? ちゃんと飯食ってる?』
「大丈夫ですって」

 相変わらずだな。笑みを浮かべながら言うと、向こうで安堵したように息を吐くのが聞こえた。

「すみません、今兄貴夕飯作ってて…」
『あー、いいって。それより、翼と話したいしな。廉の奴、翼に会いたいって言っても会わせてくれねぇんだよ。今度あいつに内緒で出掛けような?』
「ははは…」

 先程の戸次や日向野、春斗さんとも会うな近づくなと一点張りだった兄貴の姿を浮かべて、苦笑しかでてこない。兄貴…どんだけ過保護なんだ…。八つも離れてたら、そりゃ、世話焼きたくなるのかもしれないけど、最近は以前より厳しい感じがする。

「春斗さんは、今どんな感じですか?」
『んー。まあ、ボチボチかなー。何の面白みもない毎日過ごしてるさ』

 因みに春斗さんは、俺の地元の高校で体育教師をしている。爽やかだし、格好いいから人気が凄いらしい。何で教師かっていうと、元々運動が好きだからってのと、驚くことに兄貴が教師になると聞いたかららしい。…本当に仲いいよな、二人とも。