至近距離にあるその端正な顔に、毎度のことながら少しドキドキしながら、なんでそんな顔をするのだろうと考える。普通に仲はいいのにな…。兄貴は気が置けない友人しか家に招かない。その上春斗さんは一番兄貴との付き合いが長い人なのだ。

「お前は俺と春斗どっちの方が好きなんだよ」
「……は?」
「勿論俺だよな? クソ翼」

 名前の前にクソが付きすぎてもうそれが名前みたいなことになってるんだが。いや、今はそれは置いといて(個人的には置いておきたくないけど)。そりゃ、幾ら春斗さんであっても、兄貴の方が好きだとは断言できる。それは、兄貴も承知のことだと思うんだけど……。今日の兄貴は、どこか変だ。何かを不安がっているというか…。

「俺は兄貴が好きだよ」
「……おう。それでいいんだよ」

 そう言うと、ふいと顔を背けた兄貴は、片手で口を覆う。それは兄貴の照れた時の仕草で、俺は自然と笑みを浮かべた。

「あ、そういえば、結局戸次がどうしたんだ?」
「あー、それな。お前、あいつに近づくなよ」
「え、何故」
「あいつ嫌いだから」

 お前の私情かーい!

「あと、あいつだあいつ。日向野」
「日向野とか今更じゃないか? 俺もそろそろ諦めてほしいんだけど」

 溜息を吐くと、兄貴を肩を数回叩く。そろそろ離してくれないだろうか。春と言っても、こんなに密着してたら流石に暑い。
 しかし、離してくれるどころか、再びぎゅう、と力を込めて抱き締めてきた。

「日向野は、お前に執着しすぎてんだよ」
「勝っちまったからだろ、それは」
「…今はそうかもしれねぇがなぁ…」

 何かを思案するように、黙り込む兄貴に、俺は思った。
 ……暑い。



以下、登場人物紹介。微ネタバレ有り



嘉山 翼(かやま つばさ)

元虐められっ子、現不良。
人見知り。ブラコン。

嘉山 廉(かやま れん)

翼の兄。8つ違い。元不良、現教師
翼のことが可愛くて仕方がない。
血が繋がってることなんて気にしない。男同士でも気にしない。
寧ろ禁断なんて燃えるとか思っている。

日向野  涼太(ひがの りょうた)

一度翼に負けてからずっと付き纏っている。
最近自分の感情に戸惑っている。

大川(おおかわ)

翼のことを君付けで呼ぶ。遠くでよく眺めているが、話しかけたことはない。
慎重な性格。へらへらしている。

戸次 慶一(べっき けいいち)

翼を追ってきた。
頭がいい不良。
時々危ない発言をする。

春斗(はると)

廉と親しい人物。翼を可愛がっている。
爽やかだけど…?