目の前には、ソファーに座り、腕と足を組んで偉そうにしている兄貴の姿。兄貴は、普段見せないような笑顔を浮かべ、俺に訊ねた。

「――で、俺に何か言うことは?」
「え、えーと…」

 どうしてこんな状況になっているのかというと、今日はどうしてかしつこい日向野を撒くのが辛くなって、追いつかれそうになったところを兄貴が助けてくれたのだ。いや、助けてくれたという表現は違うな。正確にはサボった俺を叱るために捕まえたんだろう。……襟首を掴んで。驚いた上に、走り回った所為で息が上がっていたから、凄く苦しかった。そこに日向野が追いついたのだ。兄貴を見ると、渋々といった表情で引き返していたけど。兄貴も、呆れた顔で日向野を見送っていた。
 そのまま兄貴の部屋に連れ込まれ、今に至る。兄貴がこんな顔をするのは、本当に苛々している時だ。そんなにサボったのが駄目だったか…? でも、サボっただけで、普通こんなにも苛立つだろうか。それに、俺はサボり常習犯だ。
 取り敢えず、謝ることがサボったことしか思いつかない俺は、頭を小さく下げて口を開いた。

「さ、サボってすみませんでした…」
「ああ゛?」

 怖いんですけど…! 何! 何がそんなに気に入らないんだよ!

「サボるとか今更どうでもいいっつーの」

 チッと大きく舌打ちして顔を顰める兄貴に、顔を引き攣らせる。どうでもいいとか、風紀顧問が言っていいのかよ。いや、それ以前に教師としてどうだよその発言。
 というか、それなら一体何なんだ? 入学式寝たことか? それもサボるのはどうでもいいという奴が気にするわけないよなあ…。
 考えに詰まった俺は、降参のポーズをして、恐る恐る謝る。

「兄貴…ごめん、何に対して怒ってんのか分からねぇ」
「相変わらずお前は馬鹿だな。あいつのことだよこの馬鹿」

 何て酷い言い様だ。馬鹿って二回言ったぞ。
 ……そして、あいつとは誰のことだよ。あいつって言い方困るわ。…もしかして日向野か? それこそ今更のことのような気がするんだけど。
 不思議そうな顔をしていたのか、一層顔を顰めると立ち上がって、俺の頭を殴った。流石兄貴だ、痛い……。

「戸次慶一だよ。お前と同じクラスのな」

 ――戸次慶一。先程聞いたばかりの名前に、俺は目を瞬いた。