体育館に着いたはいいが、席がない。いや、正確にはあるんだが、俺の席であるはずのそこは違う奴が座っていた。そいつの前に座っている奴が飯田だから間違いない。さっきの表を見たときも前は飯田だったから。別に今更席なんてどうでもいい。適当に座ろうと、何かが起きるわけでもない。しかし、一番の問題点は、その席に座っている奴が栗原だということだ。しかも寝ている。
 立ったままでいるのもなんだし、その横の空席に座る。急に来た俺に、栗原と反対の隣の席に座っている奴が、ひっと小さく悲鳴を上げた。一瞥すると、顔を青くさせて俯いている。興味はないので、直ぐに視線を逸らして、壇上を見る。新入生代表の話らしく、何か話している。

「――あ?」

 確か新入生代表って、一番頭がいい奴がやるんだよな? 俺は顔を引き攣らせた。話をしているのが、ついさっき意味不明な言葉を残したスイだったからだ。あいつ、いつの間に来たんだよ。つか頭良いとか…益々腹立つ奴だ。
 しかし、腹が立つと言っても、何故か喧嘩を売る気なんて起きない。俺は横で微かに寝息を立てて寝ている栗原を見た。今勝ちたいと思っているのは、こいつだけだ。
 俺も寝るかなと目を瞑ると、程なくして俺は意識を手放した。




 不意に肩に重みが加わって、目を開ける。式は終わったようで、皆出て行っている。少しだけ重い右肩を見てみると、驚きに目を見開く。
 栗原が俺の肩に寄りかかっていた。顔を覗き込むと、いつもよりあどけなくて年相応の顔が見えた。じっくり見る機会なんてなかったが、意外にこいつ寝てたら――って、なに考えてんだ、俺。
 視線を逸らし、さっさと肩を退けて勝負でも挑もう。そうは思っても、何だかこの時間を打ち壊すのは気が引けた。栗原が初めてこんなに近くに感じていると意識すると、急に体が硬直したように動かなくなった。肩が体温の所為にしても、異常に熱い気がする。

「……っ、くそ」

 訳の分からない感情に、俺は人知れず溜息を吐いた。